レアル・マドリードは14日、スペイン・スーパーカップ決勝で宿敵バルセロナに圧勝し、通算13回目の王者に輝いた。
今回もサウジアラビア開催となったが、そもそもなぜスペインの統一王者を決める大会が国外で行われるようになったのか? それには当然、多額の金銭が絡んでいる。
■経済的利益を上げるため国外開催
82-83年シーズンにスタートした同大会はこれまで、夏にホーム・アンド・アウェー形式で行われるのが常だった。しかし18-19年シーズン、スペインサッカー連盟は経済的利益を上げるため、同大会史上初となる一発勝負および国外開催を決断。さらにスペインの公式戦で初めてVARを導入し、タンジェ(モロッコ)が舞台となった。
スペインサッカー連盟はさらに翌年、これまであまり大きな価値がないとされていたこの大会を立て直し、「スペインサッカー」をブランド化し世界に広めるべく、19-20年シーズンから本格的に大会形式を一新。スペインリーグ優勝と2位、国王杯ファイナリストの4チーム参加のトーナメント制となり、冬に国外で開催されることになった。そして数ヶ国によるオークションの結果、サウジアラビア政府がその権利を落札したのだ。
- スペインスーパー杯を制して喜ぶレアル・マドリードの選手たち(AP)
■ピケが会長務める投資会社が支援
この契約は、まだ現役だった元バルセロナDFジェラール・ピケ氏が会長を務める投資会社コスモス(楽天の三木谷会長の財政支援を受けて17年に創業)が仲介役を務め、サウジアラビアの公営企業セラとの間で交わされたことで物議を醸し出した。
当初の契約は6年間。最初3大会は強制的に開催され(20-21年シーズンは新型コロナウイルス感染拡大の影響によりスペイン国内で実施)、残り3大会はサウジアラビア政府の決定次第という内容だった。
当時の報道によると、スペインサッカー連盟はサウジアラビア政府から1大会ごとに4000万ユーロ(62億円)を受け取り、そのうち1000万ユーロ(約15億5000万円)を自分たちの利益とし、3000万ユーロ(約46億5000万円)を参加チームに分配する予定だったという。そしてコスモス社には仲介手数料として同国から、1大会ごとに400万ユーロ(約6億2000万円)が支払われ、スペイン・スーパーカップはまさに金のなる木となった。
この契約は現在、2029年まで延長されているが、同大会に参加する選手たちは今後もシーズン半ばの疲労が溜まるタイトな日程の最中、中東への移動を余儀なくされ、大きな犠牲を払うことになる。
■不平等な分配金は裁判になった
また、参加チームの実績(タイトル獲得数、視聴者数、放映権の分配比率など)に応じて算出される不平等な分配金は当初から大きな問題になっていた。さらに、ピケ氏と当時スペインサッカー連盟の会長を務めていたルイス・ルビアレス氏(※ワールドカップ優勝後の表彰式でスペイン女子代表選手にキスしたことが原因で昨年9月に会長職を辞任)の間の音声データが流出し、大きな衝撃を与えていた。
同大会に選手として参加していたピケ氏はその際、分配金に関して、「Rマドリードとバルセロナに800万ユーロ(約12億4000万円)を渡し、その他の2チームにそれぞれ100万ユーロ(約1億5500万円)と200万ユーロ(3億1000万円)を払えば、スペインサッカー連盟に600万ユーロ(約9億3000万円)残る」などと、運営に介入するかのような具体的な話をしていた。
不平等な分配金については当然のことながら2強以外のクラブから不満の声が上がり、19-20年シーズンに参加したバレンシアは商業裁判所にスペインサッカー連盟を提訴。最終的にこの訴えが認められ、倍近い賞金を得るに至っていた。
今大会では当初、Rマドリードとバルセロナは固定で600万ユーロ(約9億3000万円)、アトレチコ・マドリードは280万ユーロ(約4億3400万円)、オサスナは90万ユーロ(約1億3950万円)を受け取る予定になっていた。しかし、オサスナへの分配金が安すぎたため、最終的に他の3チームからそれぞれ20万ユーロ(約3100万円)ずつ支払われ、150万ユーロ(約2億3250万円)にアップした。
さらに結果に対するボーナスとして、優勝チームに150万ユーロ(約2億3250万円)、準優勝チームに100万ユーロ(約1億5500万円)、準決勝敗退の2チームにそれぞれ75万ユーロ(約1億1625万円)が追加されることになっていた。
- スペインスーパー杯を制して喜ぶレアル・マドリードの選手たち(AP)
■ビニシウス39分間でハットトリック
このような条件下で今年10日から14日にかけてサウジアラビアの首都リヤドで開催された今大会に、バルセロナ(スペインリーグ優勝)、Aマドリード(スペインリーグ3位。Rマドリードが2位のため繰り上げ参加)、Rマドリード(国王杯優勝)、オサスナ(国王杯準優勝)が参加した。
Rマドリードは今季の勢いそのままに、準決勝でAマドリードとのダービーマッチを延長戦の末に5-3で制し、決勝ではオサスナを破ったバルセロナ相手のクラシコに4-1で勝利した。2試合合計9ゴールを奪う見事な内容で、2大会ぶり通算13回目の優勝を成し遂げたのだ。
特に決勝は両チームの今季の出来が如実に現れる結果となった。Rマドリードはボールの有無にかかわらず、試合を通じて素晴らしいパフォーマンスを発揮した。立ち上がりから攻撃陣がうまく機能し、バルセロナの高いディフェンスラインを次々と破っていく。ビニシウスはキックオフからわずか39分間でハットトリックを完成させ、アラウホの退場を誘発する大活躍を見せるなど、最高の出来であった。怒涛のゴールラッシュでRマドリードが圧勝し、前大会決勝のリベンジを果たした。
Rマドリードで11個目のタイトルを獲得したアンチェロッティ監督はこの試合後、チームが大量得点を挙げている要因として、「前線の選手たちはポジションが固定されておらず、機動力があるので、我々は相手にとって非常に危険な存在になっている。ビニシウス、ベリンガム、ロドリゴはサイドバックのサポートを受けながら多くのチャンスを作り出しており、その機動力が相手に問題を引き起こしている」と説明した。
一方、公式戦のクラシコ3連敗および10失点を喫したバルセロナのシャビ監督は「今季最悪の姿を露呈した」と試合内容の悪さを認め、「バルセロニスタに謝罪したい」と大敗に落ち込んだようすを見せていた。
■昨年9月以降は21試合負けなし
Rマドリードは近年、シーズン半ばとなる1月に調子を崩す傾向にあったが、今季は安定した戦いぶりを見せている。序盤苦しんだ得点力不足を改善し、クルトワ、ミリトン、アラバといったDF陣の主力をけがで欠きながらも、代わりを務める選手たちの奮闘により堅守を誇っている。ここまでの公式戦成績は28試合24勝3分け1敗。昨年9月に唯一の黒星を喫したAマドリード戦以降、21試合連続で負けておらず、現在7連勝中と絶好調だ。
この後、18日に国王杯4回戦で再度Aマドリードと対戦し、来月半ばのライプチヒ戦で欧州チャンピオンズリーグ(CL)を再開する。シーズンが佳境を迎える中、Rマドリードが今の勢いを維持し続けられるなら、2季ぶりのスペインリーグ&欧州CL優勝および国王杯2連覇も夢ではないかもしれない。
【高橋智行通信員】(サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」/ニッカンスポーツコム)
- スペイン・スーパーカップ決勝で敗れたバルセロナの選手(ロイター)