<パリへGO!>
パリ五輪を目指す各競技の北海道関連選手を紹介する企画「パリへGO!」4回目。帯広出身の蝦名愛梨(22=日体大-帯広大谷高)は、自然の海や川、湖で行う水泳のオープンウオーター(OW)でパリ五輪切符獲得を狙う。条件は2月3日に行われる世界選手権(カタール・ドーハ)の女子10キロで13位以内、もしくはアジア勢トップ。柔軟性の高さを生かした泳ぎで波に乗り、夢の舞台をつかむ。
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パリ五輪出場がかかるドーハの世界選手権まで、1カ月を切った。条件は上位13番目までにゴールするか、アジアの選手で1位になること。蝦名は昨年7月の世界選手権(福岡)は23位と日本人選手トップで、同10月の杭州アジア大会では女子10キロで銀メダルを獲得した。どちらの条件も、十分に手の届く位置にある。
蝦名 エッフェル塔も見てみたいし、フランス料理も現地のものを食べてみたいですね。OWを続けてきた理由の1つは、いろんな場所に行って、現地のおいしいものを食べたりできるところです。もちろんオリンピックの日本女子の最高成績は12番と聞いているので、本番では8位入賞を目指します。
強さの秘密は「ケアしてくださる方に『体がふにゃふにゃしてるね』と言われる」(蝦名)ほどの柔軟性の高さにある。手足の関節が常にしなやかで、クラゲが浮遊するのと同じように、波の動きに体を一体化させ、水面を滑るように前に進む。
蝦名 サーフィンのパドリングのような感じで、体を波に乗せます。あとは「空間認知能力が高い」と言われます。波の影響を受けても、自分がどの場所にいて、真っすぐに泳げているのかわかります。
パリ五輪切符獲得へ、着々と準備は進んでいる。レース後半にスピードを維持するため、トレーニングでは最後の1本を1番ハードに泳ぐ。また、最終予選会場のドーハの海水温は低いことが多く、18度以下なら全員がウエットスーツを着用してのレースになる。体は浮きやすくなるが、肩周りの動きが制限されるなど、泳ぎ方が変わるため、練習からスーツの着用を始めている。給水時も、温かい飲み物を試している。
蝦名 私はまだ経験はありませんが、低体温になると、体が動かなくなることも、頭がボーッとしちゃうこともあるみたいです。泳ぎを監視しているライフセーバーに「動きがおかしいな」と気付かれたら、レースを止められて、救護室に運ばれてしまうこともあるので、気をつけます。
16年リオデジャネイロ五輪400メートル個人メドレー日本代表で、日体大水泳部の清水咲子監督(31)は「(蝦名は)関節の1つ1つを柔らかく使いながら、前に進めます。あとは(肉体的に)タフで、素直。少し気持ちが弱いところが課題ですね。本人の力を出せれば、普通に(パリ五輪に)行けるはずなのに、自信を持つまでの時間がちょっと長いかな」と評価する。
蝦名 昨年までは最初から飛ばして、抜け出してからレースを進めていましたが、最近はその作戦がばれて、みんながついてくるので、今はそれ以外のレース展開を考えています。
◆蝦名愛梨(えびな・あいり)2001年(平13)11月25日、帯広市生まれ。2歳半で競泳を始めた。帯広第二中3年の全国中学競泳800メートル自由形6位。帯広大谷高3年の全豪選手権5キロ(19歳の部)3位。日本選手権OW女子10キロを大学2、3年で2連覇。4年は準V。昨年の世界選手権(福岡)は28位。五輪で入賞したら「平井大さんに会いたい」という。家族は両親と姉、弟2人。167センチ、58キロ。
◆オープンウオーター 海や川、湖など自然の水の中でタイムを競う水泳競技。10キロ以上は「マラソン・スイミング」とも呼ばれる。80年代に国際水泳連盟(現世界水泳連盟)が競技規則を作成して誕生。日本では95年に静岡・熱海で初めて大会が行われた。世界選手権は5キロ、10キロを実施。五輪は10キロのみ。08年北京五輪から正式種目となった。水温、気温、風向、クラゲなどの生物、選手同士の衝突といったさまざまな外的影響を乗り越えてゴールを目指す。パリ五輪では、セーヌ川とセーヌ川につながる運河で行われる予定。
- 日体大の蛯名は、オープンウオータースイミングでのパリ五輪出場に向け笑顔でピース(2023年11月29日撮影)
- 日体大の蛯名は、オープンウオータースイミングでのパリ五輪出場に向けて力強く泳ぐ(2023年11月29日撮影)