ダービー(G1、芝2400メートル、29日=東京)ウイークにあの男が帰ってきた-。2月いっぱいで引退した藤沢和雄元調教師(70)。JRA通算1570勝を挙げ、17年にレイデオロでダービートレーナーの称号も手に入れた名伯楽が語った引退後の今、そして、変わらぬ思いとは・・・。セオリーは「王道組(皐月賞組)」。師の金言から浮かんでくる今年のダービー馬は?

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「どうだい、みんな元気にやってるかい?」。焼けた肌に白い歯をのぞかせ、まったく変わらぬ藤沢和雄が立っていた。「今はなるべく競馬を見ないようにしているんだ」。驚きのひと言から時代を築いたホースマンの誇りが見える。「競馬というのは将来を見据えて見ていかなきゃいけない。今の私は過去のものを片付けているところ。私が管理していた馬、うちの厩舎にいた厩務員たちも一生懸命やっている。勝ちましたっていう報告がきたら、良かったなって言うだけにしている。見ると、気になることが必ずあると思う。自分も一生懸命やっていたし、みんなも一生懸命やっていると思うから、一生懸命やっているのに(外部から)何か言うとかわいそうというか、失礼だからね」。

「ダービーはね。いつの時代もパターンは同じだと思う。王道組(皐月賞組)が一番強い。戦っている場所が違うんだから。舞台が違うんだ。青葉賞、プリンシパルSは(成長が)遅れている馬たちの組。早い組は皐月賞に行っている。(青葉賞からダービー2着の)シンボリクリスエスもゼンノロブロイもダービーでは追い付いたけれどね。ただ、勝てなかったから」

藤沢和雄厩舎がダービーを勝てないことは“七不思議”と言われた。待ちに待った瞬間が訪れたのは17年。「レイデオロは2歳のうちに3連勝でホープフルSを勝って、調整が遅れたからぶっつけで皐月賞になったけど、ゴール前の脚が良かった。ダービーはペースが遅くて、ペルーサのときの二の舞いか、『あぁ』と思った瞬間にルメールが動いた。ダービーにワクワクしたときもあったよ。最後まで勝てないのはダービーかなと思ったときもあった。だから、勝ってみんなが喜んでくれてよかったよ。(助手時代に81年の)カツトップエース、(84年の)シンボリルドルフを見ているから、ダービーって大したことない、3歳限定のレースだ、と思っていたこともあったけど、その3歳限定というのが難しかった。2回出られないから。3歳の6月というのは圧倒的に馬が幼い。2400メートルで過酷なレースなんだ」。

定年で引退し、今は自宅で家庭菜園、健康のために犬の散歩やゴルフにいそしむ日々。ただ、ホースマンの魂は残ったままだ。「最後までいい馬を預けてもらって、一線級で仕事させてもらった。今も幾分早く目覚めたり、朝起きた瞬間に『あの馬、今度はこう調教してみよう』、そう思うんだ。今までの習慣でふと思ってしまう。雨が降ったとき、それと、風が吹いたとき、瞬間的に調教を考えてしまって、イライラしている自分に気が付く。天気と風のことはすごく気にしていたからね」。調教師生活を終え、初めて迎えるダービー。「よーし、国枝厩舎の馬(抽選対象のコマンドライン)の馬券を買うぞ」。そう言って、ほほ笑んだ。

<取材後記>

藤沢和雄元調教師は昨年4月から今年3月まで日刊スポーツで月1回の連載コラム「Happy People Make Happy Horse 幸せな人間が、幸せな馬を作る」を執筆。この世代の新馬戦がスタートする昨年6月4日付では「競馬で大事なのはスピードだ」と熱弁していた。

皐月賞馬ジオグリフを出した新種牡馬ドレフォンについては、日本への導入が決まった当時から高く評価してきた人だ。「アメリカのスプリンターでナンバーワンになる馬というのはゲートを失敗しない馬だよ。カッカカッカしていて、先走るだけの馬では駄目。ドレフォンは利口な馬で、そこを受け継ぐ馬が距離をこなしても不思議はない。ストームキャット系でスピードがある馬。ジオグリフは距離がどこまで持つかはわからないが、楽しみだよ」。師の言葉を解釈するなら、王道組、皐月賞を制したジオグリフが最も勝利に近く、レイデオロのように休み明けで皐月賞を走ったイクイノックス、ゴール前で鋭い脚を見せたドウデュース、ダノンベルーガも有力候補といえる。【特別取材班】

◆藤沢和雄(ふじさわ・かずお)1951年(昭26)9月22日、北海道生まれ。苫小牧市の生産牧場に生まれ、大学卒業後4年間、英国ニューマーケットのプリチャード・ゴードン厩舎へ。帰国後は美浦の菊池一雄厩舎で2冠馬カツトップエース、野平祐二厩舎で皇帝シンボリルドルフに携わる。88年開業し、JRA通算1570勝、重賞126勝の偉大な記録を残し、70歳定年制のため今年2月に引退。海外ではタイキシャトルで仏G1ジャックルマロワ賞を制覇。管理した主なG1馬にシンコウラブリイ、バブルガムフェロー、タイキシャトル、タイキブリザード、シンボリクリスエス、ゼンノロブロイ、ダンスインザムード、スピルバーグ、ソウルスターリング、レイデオロ、グランアレグリアなど。

◆17年のダービーVTR 伏兵マイスタイルが1000メートル通過63秒2という超スローペース。2番人気レイデオロとルメールは後方14番手から向正面で2番手まで上昇し、直線はスワーヴリチャード、1番人気アドミラブルを振り切った。藤沢調教師が3歳初戦で皐月賞(5着)を選択した当時としては異例のローテとルメールの「神騎乗」が語り継がれている。

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