<ジャパンC>◇1992年11月29日=東京◇国際G1◇芝2400メートル◇4歳上◇出走14頭

やったぞ、トウカイテイオー! 世界チャンプだ。第12回ジャパンC(国際G1、芝2400メートル)は29日、英ダービー馬2頭など世界の強豪7頭、日本馬7頭の14頭で行われた。前半好位を進んだトウカイテイオーは、直線でナチュラリズム(オーストラリア)に競り勝ち2分24秒6のタイムで快勝、父シンボリルドルフ(85年)に続く父子制覇を飾った。岡部幸雄騎手(44)も2度目の優勝となった。

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ピンクのそでに青のライン、見慣れた勝負服が馬群の外からゆっくりと上昇してきた。勝負どころの4コーナー、服と同じピンクの帽子は岡部、馬はまぎれもなく日本代表のトウカイテイオーだ。手綱を持ったまま、馬なりで馬群から抜け出しにかかる。ジャパンC史上最高、約17万人をのみ込んだスタンドが大歓声で揺れる。来た、来た、来たぞ。われらがテイオーが、先頭に躍り出る勢いだ。

膨らんだ希望で胸を少し高鳴らせながら、岡部は左手で輪をつくり手綱を短くする。右手のムチを合図に、満を持してのゴーサインだ。2冠馬の体が沈んで、しなやかに伸びる。岡部は「外からは何も来ないな」と確認すると、標的をインで粘る1頭に切り替えた。オーストラリア代表のナチュラリズムだ。

左のこぶしを愛馬の首の付け根につけて押し出し、リズミカルに右ムチをたたく岡部。内のL・ディットマンは、右手をグルグル回す大きなアクション、水車ムチで応戦する。内か外か。100メートル続いた豪、日のたたき合いは、岡部の最後のひと押しで決着がついた。国際G1初年度、記念すべきウイナーは、日本のトウカイテイオーだ。

オッカーベー、オッカーベー! 沸き上がるオカベコールの中、引き揚げる岡部は胸を熱くしていた。「初めてコールをいただき、本当にうれしかった。ジーンときました」。前走の天皇賞では前半で折り合いを欠き7着大敗。屈辱からの復活は世界相手の大舞台だ。ポーカーフェースをつくろうとしても、歓喜がそれを許さない。ニヤニヤ、ニッコリ。「今までいろいろなレースを勝ってきたが、生涯忘れ得ぬ感動でしょう」といきなセリフが飛び出す。

紺のダブルのスーツ、おとなしく調教師席に座っていた男が、直線半ばでドカン! と席を蹴って立ち上がった。「オカベー、テイオー」の絶叫は、松元省師だ。きゅう務員になった1965年(昭40)からこの道27年、勝負の世界を知り尽くした同師は「これほど力が入ったのは初めて」と振り返る。2冠達成のダービーより「興奮したし喜びはずっと上」とか。潤みそうになる目を、右のこぶしでぬぐった。

大外14番からの発走。岡部は内側の13頭を見ながら、ゆっくりとスタートした。休み明けの前走は他馬と軽く接触する不利もあり、前半に引っ掛かった。「カッとしないよう、力まずリラックスして走らせることに専念したんだ」。強敵の一頭と見ていたユーザーフレンドリーが折り合いを欠いているのとは対照的に、スムーズな走りで5番手前後を追走した。

「これだけのメンバーに勝ったのだから、価値ありですよ」と岡部。いったんは地獄を見た人馬が、見事に復活し世界の頂点へ。“帝王伝説”に新たな一ページが加わった。【天野保彦】

◆トウカイテイオー▽父 シンボリルドルフ▽母 トウカイナチュラル(ナイスダンサー)▽牡・5歳▽馬主 内村正則氏▽調教師 松元省一師(栗東)▽生産者 (有)長浜牧場(北海道・新冠町)▽戦績 10戦8勝▽主な勝ちくら 皐月賞、ダービー(ともに91年)大阪杯(92年)▽総収得賞金4億9239万9500円

(1992年11月30日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時

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