<スプリンターズS>◇2000年10月1日=中山◇G1◇芝1200メートル◇4歳上◇出走16頭

穴男江田照がまたやった。秋のG1開幕戦は、除外対象から滑り込んだ16頭立ての16番人気ダイタクヤマト(牡7、栗東・石坂)が、2番手から直線押し切って快勝した。単勝2万5750円は重賞では歴代3番目となる大穴。江田照男騎手(28=フリー)は1991年(平3)秋の天皇賞(プレクラスニー)以来のG1・2勝目。数々の重賞を人気薄で勝っている穴男に、また1つ勲章が加わった。

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1番人気アグネスワールドと2番人気ブラックホークが激しくたたき合う。さらに外からブロードアピールも飛んできた。だがまだ1頭前にいる。単勝最低人気のダイタクヤマトが逃げる、逃げる、逃げる。

「我慢してくれ」。あん上・江田照の左ステッキにこたえたヤマトが歯を食いしばって坂を上り切る。とうとう後続に影を踏ませず、2着に1馬身4分の1差をつけてゴールに飛び込んだ。江田照にとっては、91年天皇賞(秋)以来、2度目のG1制覇。1度目はメジロマックイーンの降着で転がり込んだ白星だったが今回は正真正銘の1着ゴール。

「坂を上がったときにはもう脚が上がっていた。『差されるかなあ』と思ったけど、よく頑張ってくれました」。さすがの江田照も最初は信じられないという表情。「(脚を)ためて行っても(直線で)いい脚は使えないことはわかっていた。渋った馬場も向くし、ユーワ(ファルコン)を行かせて道中2番手につけるのは作戦通り。今日はすべてがうまくいきましたね」。最後は、してやったりの笑顔を見せた。

穴男の面目躍如だ。98年日経賞(テンジンショウグン=12頭立て12番人気)99年エプソムC(アメリカンボス=18頭立て11番人気)90年新潟記念(サファリオリーブ=15頭立て14番人気)など重賞で開けた穴は5指に余る。「どんな馬でも『もしかすれば(勝てる)』と思って乗っているだけです」と言うが、日ごろから騎乗馬やライバルの研究、分析を続けていればこその結果。

調教師席で声をからし、机をたたいて声援を送った石坂正師(49)も「頭の中で描いていた通りに乗ってくれた。大変な仕事をしてくれた」と絶賛した。

馬自身に運もあった。1週前登録の段階では本賞金が足りず、除外候補の3番目。だがレース週までに3頭の回避があり、ギリギリ16番目での滑り込み出走だった。同師は「過去にも(滑り込みの馬がG1を勝った)例があったからね。だから勝つシーンは想像していたんだ。でもそれが現実になるとはね」と勝利の女神の気まぐれ? に素直に感謝する。

次走は未定だが、今後は追う側から追われる側に立場が変わる。「今はすべて白紙。馬にごほうび(休養)をあげようか、どうしようか」。新人G1トレーナーはうれしい悩みに顔をくしゃくしゃにした。【栗田文人】

◆ダイタクヤマト▽父 ダイタクヘリオス▽母 ダイタクブレインズ(テスコボーイ)▽牡7▽馬主 中村和子▽調教師 石坂正(栗東)▽生産者 雅牧場(北海道平取町)▽戦績 32戦8勝▽総収得賞金 2億7773万円

(2000年10月2日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時

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