<競馬は推理 だから面白い>

来年2月末に定年を迎える橋田満調教師(69)の連載コラム「競馬は推理 だから面白い」第5回は、日英G1馬ディアドラについて思いをつづる。日本調教馬最多の海外7カ国を駆け回った名牝は、かけがえのない経験と感銘を残した。

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1歳の時にセレクトセールへ上場されたディアドラは、誰にも競られず落札できました。もともとオーナーサイドとは予算も考え、良血でもまだ兄や姉が結果を出していない馬を探していました。牝系が優秀で、当時は1歳上の半兄オデュッセウス(のちにオープン2勝)がデビューしたばかり。私たちの狙いに当てはまる馬でした。

ディアドラのすごさは成長力でした。2歳夏の新馬戦での452キロから、桜花賞で474キロ、秋華賞では490キロ。5歳で欧州へ行ってからもさらに筋肉量が増え、巨大な馬になりました。また、母父のスペシャルウィークや父のハービンジャーと同じように胸囲がものすごく大きくなり、これが優れた心肺機能に直結していたのだと思います。3歳春までは勝ちきれない競馬も多かったですが、切れ味が研ぎ澄まされていき、秋華賞では「後ろすぎるかな」と思った位置どりから差し切ってくれました。

5歳春からは長期の海外遠征に出ました。欧州初戦のロイヤルアスコット(プリンスオブウェールズS)では、すばらしい経験をさせていただきました。ジョッキークラブの人に案内され、主催者でもある王室の部屋へごあいさつにうかがうと、エリザベス女王陛下ご自身がわざわざ外へ出てこられて「日本から来てくれてありがとう」と、気さくに応対してくださいました。競馬の世界ならではのことだと思います。

続く2戦目がナッソーSでした。グッドウッド競馬場はリッチモンド公爵家の所有です。周囲の見渡す限りすべてが領地というほど広大で、車のサーキットまであります。200年以上も前から王様と所有馬を競わせていたそうで、伝統のすさまじさを感じました。

この「グロリアス(栄光の)グッドウッド」と呼ばれる夏の開催は競馬場の美しさと雰囲気がすばらしく、読者のみなさんにも行かれることをお勧めします。他のレースからも勧誘を受けましたが、私たちにすごく協力的でしたし「日本で馬券を売りたい」というわけでもなく、ただ「来てほしい」という熱意に打たれました。

1840年創設で数々の名牝が制してきたレースを勝てたのは本当にうれしかったです。日本産の日本調教馬が英国のG1を制したのは初めて。国内とは比較にならないほど高低差があり起伏も激しいコースで、日本の馬が結果を出した意義は大きいと思います。

その後の愛チャンピオンS(4着)や英チャンピオンS(3着)でも超一流馬を相手に健闘してくれました。滞在先のニューマーケットでは、現地のホースマンからも一目置かれる存在感を持っていました。あちらでは調教ゼッケンを着けませんが、ストライドがすごく大きいので、ディアドラがウォーレンヒル(坂路)を上がってくると、誰もが気づくほどでした。

現役最後の年となった6歳時はコロナ禍に悩まされました。計画を立てても開催の中止や延期が続き、調子の維持が難しかったです。そんな中でよく頑張ってくれたと思います。

海外7カ国での出走は、過去最多だと聞きました。このような長期遠征ができたのは、森田オーナーのご理解があってこそです。「世界の競馬を楽しもう」と喜んでくださいました。私にとっては、世界中でたくさんの“答え”を出してくれた馬です。欧州の馬場も克服して、日本馬の可能性を見せられました。次は子供の走りも楽しみにしています。(JRA調教師)

◆ディアドラ 2014年4月4日、ノーザンファーム(北海道安平町)生産。父ハービンジャー、母ライツェント。牝、鹿毛。馬主は森田藤治氏。15年セレクトセールで2100万円。通算成績は33戦8勝(うち海外14戦1勝、重賞5勝、G1・2勝)。17年の桜花賞は6着、オークスは4着に敗れたが、秋に紫苑Sから連勝で秋華賞を制覇。19年春からは海外を転戦して同年8月に英G1ナッソーSを制した。

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