<ダービー>◇2002年5月26日=東京◇G1◇芝2400メートル◇3歳◇出走18頭

武豊騎手(33)騎乗の1番タニノギムレット(牡3、栗東・松田国)が、鮮やかにリベンジを果たした。前半は後方待機から直線で豪快に差し切り、3歳NO・1の座に就いた。不完全燃焼に終わったNHKマイルCのうっぷんを晴らした武豊騎手は、史上初のダービー3勝目の快挙。クラシック初制覇を狙った藤沢勢4頭は、シンボリクリスエスが2着、マチカネアカツキが3着。悲願達成はならなかった。

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リベンジへの執念が500メートルの直線に凝縮された。「自分の馬を信じて乗った」。タニノギムレットを操る武豊には自信があった。皐月賞でもNHKマイルCでも一番強い競馬をした。直線、馬群の大外に進路を取ることに迷いはなかった。馬場の真ん中まで持ち出すと、栄光のゴールがはっきりと見えた。はじけるように伸びた。

前を行くシンボリクリスエスは青葉賞で騎乗した馬。強さは知り尽くしている。どうだ届くか? 一瞬、迷いも生じたが、すぐ冷静さを取り戻した。「直線は長い。何とか捕まえてくれ!」。執念の左ステッキをたたき続けた。ゴール前で激しい2着争いをまとめて差し切ると、最後は1馬身差の完勝だった。

NHKマイルCから続いたすべてのモヤモヤは、この瞬間に吹き飛んだ。前半は13番手に待機。縦長の展開にもじっくり我慢した。武豊は胸を張った。「今まで乗った中で、今日が一番強かった」。3歳最強を証明。借りは返した。

激動の数カ月を乗り越えての美酒。2月、中山競馬場での落馬事故で骨盤骨折の重傷を負った。一時は春シーズン絶望ともいわれた。「とにかくダービーに勝てた。今年の大きな目標の一つを達成できた」。デビュー以来最大の危機を乗り越え、天才は大きな勲章を手に入れた。

ダービー3勝。またもや前人未到の世界へと足を踏み入れた。保田隆芳、郷原洋行・・・。偉大な先人が達成できなかった快挙を、33歳の若さで成し遂げた。しかし、これで満足はしない。「4つめ、5つめを狙っていきますよ。まだ若いですから」。

「うれしい」。いつもは冗舌な松田国英師(53)もそれしか言葉が見つからなかった。「うれしいと思います」。ただその言葉を繰り返した。信念の勝利だった。皐月賞→NHKマイルC→ダービー。異例のローテションに批判の声も上がった。しかし、曲げなかった。「馬はレースを使うことで強くなる」が持論。力を信じて厳しい調教を続けてきた。

激しい競馬となったNHKマイルCの後も同じだった。調整は緩めなかった。集大成となる大一番に万全の仕上がりで臨めた。「出来は良かった」と武豊も納得してくれた。方針は間違っていかなった。「自分の信念にスタッフがついてきてくれて幸せに思う」。松田国師も会心の笑顔がはじけた。

春の戦いを終えたギムレットは、つかの間の休息に入る。この夏は北海道浦河町の吉沢Sで休養。秋に備える。松田国師の口からは「海外遠征」という言葉も出た。期待は膨らむばかりだ。武豊は再びフランスへと渡る。6月3日の仏ダービーでは有力馬のルフーへの騎乗予定もある。「僕もギムレットもまだまだ上を目指して行きたい」。人馬ともにさらなる飛躍を期し、新たな戦いを始める。【鈴木良一】

◆タニノギムレット▽父 ブライアンズタイム▽母 タニノクリスタル(クリスタルパレス)▽牡3▽馬主 谷水雄三▽調教師 松田国英(栗東)▽生産者 カントリー牧場(北海道静内町)▽戦績 8戦5勝▽総収得賞金 3億8601万円▽主な勝ちクラ 02年シンザン記念(G3)アーリントンC(G3)スプリングS(G2)

(2002年5月27日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時

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