<ダービー>◇2004年5月30日=東京◇G1◇芝2400メートル◇3歳牡、牝◇出走18頭

安藤勝己騎手(44)が手綱を取ったキングカメハメハ(牡、栗東・松田国)が、1番人気の期待に応え第71代のダービー馬に輝いた。4角先頭から押し切る圧倒的な強さで、01年生まれ9015頭の頂点に立った。NHKマイルCに続くG1連覇。松田国英師(53)は3度目の挑戦で、クロフネ、タニノギムレットがなし得なかった悲願の2冠を達成した。皐月賞2着のリベンジを狙ったコスモバルク(牡、北海道・田部)は直線で失速し8着。地方の夢はかなわなかった。

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夢へと続く526メートルの長い道。アンカツとキングカメハメハが4コーナーを回って先頭に躍り出た。「早すぎるかな」。一瞬、不安が脳裏をよぎったが、ちゅうちょしている暇はなかった。外からはハイアーゲームが猛然と襲いかかる。「このままでは、やられる」。腹をくくって、最後のスパートを掛けた。左ステッキを1発、2発。手綱を握る両腕にこん身の力を込めた。

広い広い府中のターフ。馬場の真ん中のさらに外。緑の帽子がゴールへ向けてひた走る。食い下がるハイアーゲームとの壮絶なたたき合い。アンカツは心の中で何度も叫んだ。「頑張れ! 頑張れ!」。今までに経験したことのない激しい競馬。残り300メートル手前でハイアーを競り落としたが、カメハメハも余力はない。今までにない右にもたれるしぐさ。「最後はもう、お釣りがなかった」。限界を超えた直線の攻防。人馬ともに気力を振り絞ったその先に、栄光のゴールが待っていた。

地方出身ジョッキーとしてはもちろん初めて。中央移籍から1年3カ月でつかんだ頂点の座。栄光の瞬間は思いのほかに冷静だった。右手で小さくガッツポーズ。全身で喜びを爆発させることはない。地下馬道に引き揚げる寸前に、もう1度右手を上げただけ。ヒーローは静かに喜びをかみしめた。「まだ実感がない。うれしいより、ホッとしたよ」。謙遜ではない。偽らざる心境だった。

「勝てる」と思って挑んだダービーだった。東京への出発前、アンカツはゆかり夫人にこう言って家を出た。「あんまり『勝てる』というと硬くなるけど、今回は勝てる気がする」。支えてくれる家族にだけ明かした本心。「勝てるといいね」という夫人の激励に笑って応えた。自信ではなく勝利への確信があったからこそ、喜びよりも安ど感が上回った。「自分の中では自信があった。すごい馬。それを見せられて良かったと思う」。

進化するパートナー・キングカメハメハ。数え切れないほどの馬の背中を知っているアンカツが「乗るたびに違う。馬が変わっている」と驚く怪物は、栄光のダービーで新たな衝撃を与えてくれた。圧倒的な強さを見せつける2分23秒3のレコード勝ち。「NHKマイルCがあれだけの競馬。これ以上強いことはないと思ったけど、やはりこの馬は強い」。ダービーの勝利もちろんうれしい。だが、パートナーの強さを完ぺきに引き出せたことが、何よりもうれしかった。

レース後の勝利者インタビュー。マイクを向けられたアンカツは照れ笑いを浮かべながら言った。「ダービーを勝った? 明日の朝に新聞を見たら実感がわくのかな・・・。ダービーだからといって力が入ったことはないからね」。ヒーローは淡々と自分の仕事をこなしただけ。しかし、やり遂げた仕事はとてつもなく大きいものだった。【鈴木良一】

◆キングカメハメハ ▽父 キングマンボ▽母 マンファス(ラストタイクーン)▽牡3▽馬主 金子真人▽調教師 松田国英(栗東)▽生産者 ノーザンファーム(北海道早来町)▽戦績 7戦6勝▽総収得賞金 3億7513万1000円▽主な勝ちクラ 04年毎日杯(G3)、04年NHKマイルC(G1)

(2004年5月31日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時

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