<エリザベス女王杯>◇14日=阪神◇G1◇芝2200メートル◇3歳上牝◇出走17頭
“幸せの赤い糸”が大波乱に結びついた。10番人気の重賞未勝利馬アカイイト(牝4、中竹)が後方から大外をまくり2馬身差の完勝を果たした。金星を挙げた幸英明騎手(45)は3年ぶりのG1制覇。
2着に7番人気ステラリア(牝3、斉藤崇)、3着に9番人気クラヴェル(牝4、安田翔)が入り3連単339万円超の大荒れ。キズナ産駒はJRA・G1初制覇&ワンツーとなった。
◇ ◇ ◇
白地に赤いラインの映える勝負服が、西日差す4コーナーを鮮やかにまくっていった。まるで大外から有力馬たちを縛りつけるように。どよめくスタンドを横目に、ラスト200メートルで先頭へ立ったのがアカイイトだ。上体をさかんに上下させ、幸騎手が右ムチを振るう。「誰も来ないでくれ!」。後続は迫るどころか遠ざかる。堂々の2馬身差V。端正な顔がほころび、白い歯を見せた。
「ただただうれしい。今までより早めに動いていこうと思っていた。思いのほか早く前をつかまえて仕掛けが早かったかと思ったけど・・・。必死でした。力がないとできない競馬です」
縁を劇勝に結びつけた。今回が初騎乗。「依頼が来た時に(同じ岡浩二オーナーの)ヨカヨカで重賞を勝った関係かと思いました。そういう意味では“赤い糸”ですね」。G1初出走の重賞未勝利馬でも糸口を探って過去19戦の映像を見直した。前任の横山典騎手にも取材した。導き出した答えが大外まくりだった。
「競馬界の鉄人」は不屈だ。G1制覇は18年ヴィクトリアマイル(ジュールポレール)以来3年ぶり。同年11月に落馬で右肘開放粉砕骨折の重傷を負い、ボルト7本とプレートを入れる手術を受けた。当初は全治半年と診断され、一時は握力が3キロまで落ちた。それでも「神経や靱帯(じんたい)は大丈夫で運が良かった」と前を向き、3カ月足らずで復帰した。最近は大好きなスイーツをエネルギー源に、自宅周辺を走り込んで体力を強化。今年は自己最多76勝まであと3勝に迫り、45歳の今こそ円熟期だ。
同じく3年ぶりのG1タイトルとなった中竹師は「最高ですね。めりはりがついてたくましい体になった」と愛馬の成長に目を細めた。オープン昇級初戦の府中牝馬Sは7着。それでもめげずに頂点へと挑み、大波乱Vをたぐり寄せた。今後は状態次第。勇敢な人馬が織りなしたシンデレラストーリーは、次なる夢を紡いでいく。【太田尚樹】
◆アカイイト▽父 キズナ▽母 ウアジェト(シンボリクリスエス)▽牝4▽馬主 岡浩二▽調教師 中竹和也(栗東)▽生産者 辻牧場(北海道浦河町)▽戦績 20戦5勝▽総収得賞金 1億9289万5000円▽馬名の由来 赤い糸。父名より連想