「名前を覚えておいても損はないと思います」。昨年暮れにフランスの清水裕夫調教師(39)からそんな言葉をもらい、ワクワクしたことを思い出した。(日刊スポーツ「フランスで存在感増す清水裕夫厩舎/20年取材メモ」を参照)

1日、フランスのエヴルー競馬場で清水裕夫調教師が管理するフォールインラブ(牝2、父シーザスターズ)が坂井瑠星騎手を背に、デビュー2戦目で初勝利を挙げた。同騎手にとってはフランス初騎乗初勝利というメモリアルになった。

フォールインラブは昨年10月のフランス、アルカナ社のオクトーバーセール初日に45万ユーロで高額落札されたオーナー、厩舎の期待馬。一族にモンズン(ドイツの大種牡馬)、ブラムト(17年の仏2冠馬)がいる血統であり、なにより特筆すべきなのは、落札後の11月、アメリカのBCジュベナイルターフを1歳上の半姉アントパール(父ロペデヴェガ)が制したことだ。

注目していたデビュー戦は先月8日のドーヴィル。例年各厩舎の評判馬が集う新馬戦、マレット賞(芝1500メートル)に出走し、後方からジワジワ差を詰めての6着だった。レース後、清水師からは「まあまあ(の内容)ではありました。息がすぐ戻ったので本気で走ってない印象でもあり、そこをどうするかが次への向けて課題となります」というメッセージが届いた。焦る必要はない、ただ、結果が欲しかった2戦目だったと思う。大きな勝利だったに違いない。

清水師を取材していて感じるのは、どんなトップジョッキーに対しても毅然とした態度を取ることだ。パドックの騎乗前の時間に身ぶり手ぶりで事細かに馬の特徴を伝え、指示を出す。もちろん、流ちょうなフランス語で。「指示を出すのは、それが調教師である自分の仕事だと思っていますから。レースで後悔はしたくありませんし、やれることをやるだけです」とその姿勢に迷いはない。

以前、シャンティイのカフェでクリスチャン・デムーロ騎手と談笑中に師の印象を聞いたことがある。クリスチャンは苦笑いを浮かべ、「ものすごく真面目で、熱心で、一生懸命で、いい意味で、こんなに競馬に狂っている人は他にいないんじゃないかな」と誠実に競馬と向き合う清水師の態度をほめていた。

1日にフランス初騎乗初勝利を果たした坂井騎手は「事前に清水先生とエージェントと相談して、考えていた通りのレースをすることができ、勝つことができました。このような機会を与えてくださった関係者の皆様に感謝します」とコメントしているが、清水師からも「余裕で先頭に立った後、ソラを使ってしまったので着差(1馬身)以上に強い内容だったと思います。騎手が冷静に上手に乗ってくれました」とジョッキーをたたえるメッセージが届いた。

来週のフォワ賞から凱旋門賞に挑むディープボンド(牡4、大久保)、同様にマイル重賞に挑むエントシャイデン(牡6、矢作)を受け入れている清水裕夫厩舎。期待の2歳馬フォールインラブの勝利は厩舎の雰囲気を明るくしたに違いないし、現地に滞在する日本馬陣営にもいい影響を与えているはずだ。

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