なぜ、ジャングルポケットはダービーを勝てたのか?

かつて角田晃一騎手(50=現調教師)に聞いたことがある。すると、意外な答えが返ってきた。

「ひとことで言えば、運が良かった」

個人的には、そうは見えなかった。僕は岐阜で生まれ、大学時代は京都へ。初めて生で見たダービーが、大学4年生時の01年だった。ちょうど日刊スポーツに就職が決まった直後。母に借りた車で東京競馬場へ駆けつけ、前夜から寝袋にくるまって徹夜で並んだ。念願の生観戦となった大舞台で、黄、緑、黒の勝負服は外からねじ伏せるような完勝をおさめた。11万人超が詰めかけた観客席からは、運が介在したようには見えなかった。

さらに付け加えれば、枠順は“最悪”だった。今世紀に入って大外枠からダービーを勝ったのは、ジャングルポケットが最初で最後。最内枠が5勝を挙げているのとは対照的だ。

それなのに、なぜ「運が良かった」と言えるのか? さらに聞いた。

「すべてがかみ合った。単純に考えれば内が有利だけど、そうとは限らないのが競馬。枠が決まってからプランを考えないと」

発馬を考えれば、たしかに大外枠は「幸運」だった。皐月賞(3着)では1番枠。真っ先にゲートへ入って中で長く待たされ、出負けした上に大きくつまずいたのが響いた。

「1番から18番に替わって『(枠入れが最後で)待たされないからいい』と思った。あとは『つまずかないように』とか『自信を持って、じっくり行こう』とか。出来も良かったので。勝つ馬が勝つ枠に入るんだよ」

腹をくくった。1番人気での本馬場入場には「鳥肌が立った」という。それでもレースでは「冷静だった」。道中は中団後方で脚をため、直線では重馬場をものともせず外から突き抜けた。

「ダービーは別格。みんなが目指すからね。みんなの思いがある。(ジャングルポケットは)ダービーのために皐月賞に出ないという選択肢もあったぐらいだから」

重圧も別格だ。そんな中で、不利とされる大外枠を「不運」ととらえることなく「幸運」と受け止められた。そんな鞍上の精神力こそが勝因だったのかもしれない。

最後に個人的な余談を。僕が人生で初めて頭を丸めたのも、このダービーがきっかけだった。レース前に競馬仲間へ「クロフネが負けたら丸刈りにする」と宣言。5着に敗れて公約を実行するはめになった。あれから20年以上、ほぼ一貫して短髪のまま。今年1月にはクロフネも世を去っており、僕のヘアスタイルに大きな影響を与えた2頭が相次いでいなくなってしまった。本当にさみしい。【中央競馬担当=太田尚樹】

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