<ダービー>◇26日=東京◇G1◇芝2400メートル◇3歳◇出走18頭

令和元年の王者は12番人気ロジャーバローズ(牡、角居)と浜中俊騎手(30)だ。2番手から首差で押し切り、2分22秒6のダービーレコードで世代7071頭の頂点に立った。

秋は1次登録を済ませている凱旋門賞(G1、芝2400メートル、10月6日=仏パリロンシャン)挑戦も視野に入れる。鞍上は13年目で初制覇。今は亡き祖父の夢をかなえて涙した。角居勝彦調教師(55)は07年ウオッカ以来となる2勝目を挙げた。

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11万の大観衆と気温30度超の熱気をどよめきに変えた。残り400メートルを切って先頭は12番人気ロジャーバローズ。「早くゴール、来い!」。白ずくめの浜中が歯を食いしばり、右手に持ち替えたステッキを振るい、左手で手綱を押す。永遠にも思えた残り2ハロン。赤いゴール板が眼前で少しずつ大きくなる。右後方から猛追を受けてのフィニッシュ。勝った・・・はず。確信は持てず、馬上で思わず聞いた。

浜中 残ってますか?

戸崎 残ってるよ。

頭の中までも真っ白になった。まだ信じられない。真っ先に出迎えた米林助手に「夢やないか。頭を殴ってくれ」と頼まれて「俺も殴ってくれ」と返した。

「びっくりしてます。何というか『無』になった。思考停止してる感じ。パニックだった」

五月晴れの空の上へ、栄冠をささげた。視点の定まらなかった目から涙がこぼれたのは、レースから約1時間後の会見場だった。

「おじいちゃんの夢をかなえられたのが一番。あの人に競馬界へ引きずり込まれたようなもの。かけがえのない人。今日を見せてあげたかった・・・」

今は亡き祖父幸照さんに連れられ、子供の頃は自宅近くの小倉競馬場へ通い詰めた。何度も聞かされた言葉が今も耳に残る。「わしが死ぬまでにダービーを勝ってくれ」。その“恩人”は16年11月に他界した。最後に病院で顔を合わせたのは、ミッキーアイルでマイルCSに挑む直前。家族に「もう長くない」と聞かされ「できればアイルを見てもらえたら」と願ったが、斜行で騎乗停止になりながらも勝った時は、すでに荼毘(だび)に付された後だったという。

天からの後押しもあった。レース3日前に出た枠順は絶好の1枠1番。その日に落とした財布も、見知らぬ人が拾って届けてくれたという。目に見えない流れをひそかに感じていた。覚悟を決め、2番手から強気の競馬で攻めた。

「バテない強みを生かそうと思っていて、描いたプラン通りの競馬。『今年はダービーに乗れない』と思っていたのにチャンスがめぐってきた。あらためて『競馬は最後まで分からない』と身に染みて分かった」

あの人も背中を押してくれたに違いない。きっと。「必ず見ててくれたと思う」。令和元年のダービージョッキーは、涙をぬぐった瞳で空を仰いだ。【太田尚樹】

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