父から子へ、バトンは託された。令和最初のダービー(G1、芝2400メートル、26日=東京)で20歳の若武者・横山武史騎手がダービーに初参戦する。ダービー2勝の父典弘騎手(51)が騎乗停止処分を受けたことで、青葉賞勝ち馬リオンリオン(牡3、松永幹)の騎乗機会がめぐってきた。父は複雑な思いを抱えながらも息子に温かいエールを送り、偉大な父の背中を追う武史は初の大舞台への期待を膨らませた。

どれだけ年を重ねても憧れは薄れない。それがダービーだ。トライアルの青葉賞をリオンリオンで制した横山典。18日東京2Rで騎乗停止処分を受け、ダービー参戦の権利を失った。無念さ、情けなさ、陣営に対する申し訳なさが渦巻く。

「ポンポンと大寒桜賞と青葉賞を勝ってさ。同期2人でダービーの舞台に立てるなんて最高だね、なんて話してたんだよ。まさかこうなるなんて。プロとしてあってはならない。申し訳ない。でも、若い武史にチャンスをくれて本当に感謝している。親としてこれ以上うれしいことはないよ」

沈む感情を救ってくれたのもまた、同期の松永幹師、共にいくつもの重賞を手にした寺田オーナーだった。鞍上には息子の武史が指名された。横山典が初めてダービーに騎乗したのはデビュー4年目。息子は1年早く大舞台に立つ。

「若くて生きはいいけど、腕はまだまだ。それはそうだよ。3年目で経験がないんだから。俺の時は多頭数だったし、時代も違った。俺が築いた縁もあるけれど、このご時世に頑張って成績を出して声を掛けてもらったんだから。言われたときは喜んだだろうな。やつ自身もいろいろ考えているだろうから、こう乗れとかアドバイスをすることはないよ。大きいレースに若いやつが乗る、乗れるっていうのはいいと思う。俺も(90年2着メジロ)ライアンの時は自分が一番うまいって思っていた。パドックに行って、自分で感じたことを返し馬ですり合わせて乗ればいいんじゃないか」

自分を信じろ-。無言のエールは経験に基づいている。90年エリザベス女王杯優勝馬キョウエイタップ。30年近くたっても、忘れられない思い出がある。

「俺も昔キョウエイタップでトライアルの4歳牝馬Sを勝ったときに、おやじ(故富雄氏)に『オークスはあんな後ろからでは無理だ』って言われてさ。今でも耳に残ってるんだよ。おやじも騎手ですごい人だったし、それで(オークスで)早めに動いちゃったから6着に負けたんだよな。だからエリ女のときは自分を信じようと思って乗ったんだ。それで勝った。そういうことなんだよ。アドバイスはいいことばかりじゃないってこっちも思ってる」

今までと景色が異なる令和初のダービー。心の底からゲートインの瞬間を楽しみに待つ。

「乗ってない年は悔しさとかもあるけど、今回は違う。この感情は言葉では表しきれないんだ。(鞍上決定の)話を聞いたときは涙が出そうになった。いや、出てたな(笑い)。こんな時代に向こうからチャンスをくれた。息子まで世話になって本当にありがたい。まず無事に、全力の競馬をしてほしい。親だもん。リオンリオンには違うところで恩返ししたい。騎乗停止だけど、競馬場には来るよ。全力で応援させてもらう」。

先輩騎手ではなく、父として。息子の晴れ姿を見届ける。【松田直樹】

◆横山父子メモ 横山典弘騎手は父に元JRA騎手の富雄を持ち、兄賀一も元JRA騎手。86年デビューから先週までJRA通算2750勝。ダービー初騎乗は89年ロードリーナイト(6着)。息子2人も父の後を追ってJRA騎手に。長男和生は11年にデビューして、昨年のエルムS(ハイランドピーク)でJRA重賞初制覇。三男武史は17年デビューで先週まで73勝。

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