<G1プレーバック:2006年ダービー>

 プレーバック日刊スポーツ! 過去のダービーを紙面で振り返ります。2006年はメイショウサムソンが皐月賞に続く2冠を達成しました。

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<ダービー>◇2006年5月28日=東京◇G1◇芝2400メートル◇3歳◇出走18頭

 雑草コンビが2冠を達成した。苦労人・石橋守騎手(39)が、1番人気に推された皐月賞馬メイショウサムソン(牡3、栗東・瀬戸口)を見事ダービー馬に導いた。デビューから11戦、すべてコンビを組んできた人馬一体の強みで混戦を制した。秋には昨年のディープインパクトに続く3冠制覇を目指す。

 ディープインパクトフィーバー一色だった昨年とはまた違う、温かな拍手が府中を包んだ。昨年に続く2冠馬誕生の直後、約10万人の観衆から「石橋コール」が巻き起こる中を、メイショウサムソンと石橋守騎手はゆっくりと引き揚げてきた。地下馬道を下りて行くとき、石橋守はヘルメットを取ってスタンドに頭を下げた。「ダービージョッキーになれたんだなと、感無量だった」。涙はなかったが、重圧をはねのけた安堵(あんど)感で、表情は晴れやかだった。

 6番人気の皐月賞とは違い、今回は堂々の1番人気。「気にしないつもりだったが、やっぱりプレッシャーはあった」。だが、レース前に瀬戸口師、そして兄弟子である河内師から「気楽に乗ってこい」と言われ、肩の力が抜けた。好スタートを切ると、すぐに周りを見る余裕があった。道中は絶好の4、5番手。あまりのスローペースに4角では切れ味のある後続馬が心配になったが、直線を向いて迷いは消えた。ターフビジョンをチラリと見て、目標を前に絞った。残り1ハロン。逃げたアドマイヤメインに馬体を併せ、右ムチを振り下ろす。「最後は馬の力を信じて乗った」。競馬学校同期の柴田善騎手の馬を競り落とすと、首差でゴールに飛び込んだ。正攻法の競馬が、サムソンの強さを浮き立たせた。

 皐月賞と同様、ゴール後のガッツポーズはしなかった。口取り写真の撮影で、周囲から2冠馬を表す「指2本を立てるポーズ」を促されても、照れ笑いでやんわりとかわした。飾らない石橋守の姿は、ダービージョッキーの称号を得ても変わらなかった。

 小倉デビューのサムソンに乗ることになったのは、瀬戸口厩舎主戦の福永騎手が、デビュー週に新潟に遠征していたため。運命の巡り合わせだった。その後は競馬開催日以外は、毎日のようにサムソンにまたがり、信頼関係を築いた。乗り替わりは1度もなく、今回がメンバーで最多の11戦目。「手前の替え方が下手だったり、まだ腰が緩かったサムソンに付きっきりで付き合ってくれた」と加藤厩務員。地味な印象のコンビだが、きずなはどの陣営よりも深かった。

 デビュー22年目で初めてG1を制してから、1カ月余り。石橋守は、今度は騎手として最高の栄誉を味わった。次の目標はもちろん菊花賞。2年連続の3冠馬誕生へ夢は膨らむ。「去年がすごい馬でしたからね。大きなことは言えない。でも、サムソンはまだ強くなると信じている」。強気な言葉でなくても、愛馬の可能性は誰よりも感じている。たたき上げの雑草コンビは、この秋も主役を譲らない。

※記録と表記は当時のもの

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