【G1復刻】ジャングルポケット、師弟の強い絆が生んだ栄冠 フジキセキの無念晴らす/ダービー
<ダービー>◇2001年5月27日=東京◇G1◇芝2400メートル◇3歳牡・牝◇出走18頭
ジャングルポケット(牡3、栗東・渡辺)が「第68代ダービー馬」に輝いた。道中後方を進み、直線外へ持ち出すとダンツフレーム(栗東・山内)の追撃を振り切った。渡辺栄師(67)、角田晃一騎手(30)は6年前のフジキセキ(弥生賞後に故障で皐月賞、ダービー断念、引退)の無念を晴らし、初の栄冠を手にした。史上2人目のダービー連覇を目指したダンツフレームの河内洋騎手(46)は惜しくも2着、快挙はならなかった。
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ダービー出場5回目の角田が勝負に出た。直線入り口。クロフネとダンツフレームの間にできたわずかなスペースに、ジャングルポケットの馬体をねじ込んだ。角田の右足と河内の左足が激しくぶつかる。「カチン!」。アブミが鈍い金属音を立てるが、お構いなし。右ステッキを1発たたき込むと、こん身の力で手綱をシゴいた。真っすぐ走るよう矯正しながら、ときには頭を押さえつけて愛馬を促す。「格好良く勝つ必要なんてない。ハナでも、アタマでも勝てばいいんだ」。ジャニーズ系の端正なマスクが、鬼の形相と化していた。フレームを1馬身半突き放し、先頭でゴールへ飛び込むと、全身の力が抜けた。
派手なガッツポーズはない。「ツノダ・コール」でようやく左手を突き上げた。道中は後方8番手。向正面では馬群の内へ進路を取る。1頭になって遊ぶ癖を出さないよう、細かな配慮も忘れなかった。3角でボーンキング、クロフネが動いた時もジッと仕掛けのタイミングを待った。「東京は直線が長いから。慌てず騒がず乗ろうって、自分にいい聞かせた」。皐月賞ではスタート直後につまずいた結果、大外をマクるハメになった。教訓を生かした好判断は、愛馬との強い信頼関係がもたらした。
「いやぁ、ホッとしますね。一番強いと信じていたし、堂々と乗ろうと思っていた。お世話になっている渡辺先生の馬で勝てたのが何よりうれしい」。角田は言う。前走後は大好きなゴルフの誘いを断り、ビッグマウスも封印した。それもあと3年で定年退職する師匠に、ダービー制覇をプレゼントするためだ。「少ないチャンスだし、いい意味での緊張感にはなりました。これでゴルフができますね」と笑顔がはじけた。
師弟の強いきずなが生んだ勝利だった。3着に敗れた皐月賞後、周辺には「乗り替わり」の声も上がった。武豊の名も取りざたされた。しかし渡辺師は、晃一で勝たなければ意味がない、とこうした声を封じ込んだ。「よく追い出しを我慢したと思う。弟子とともに勝てるなんて・・・・・・これ以上の喜びはない。角田と握手? 何か照れくさい」。角田も言った。「自分のきゅう舎の馬で勝てたことがうれしい」。
これで1冠を獲得したジャングルポケットだが、この日も返し馬でエキサイトするなど子供っぽさが目立つ。「まだまだ完成したわけではない。今後の成長が見込めるので、楽しみなんです」と角田。秋には菊花賞で2冠を奪取。そしてテイエムオペラオーとの激突が待っている。アグネスタキオンに代わるスターホースへ。その階段を確実に上がっている。【水島晴之】
◆ジャングルポケット ▽父トニービン 母ダンスチャーマー(ヌレイエフ)▽牡3▽調教師 渡辺栄(栗東)▽馬主 斉藤四方司▽生産者 ノーザンファーム(北海道早来町)▽戦績 6戦4勝▽獲得賞金 3億1303万4000円▽主な勝ちクラ 00年札幌3歳S(G3)、01年共同通信杯(G3)
(2001年5月28日付 日刊スポーツ紙面から)※表記は当時