前川清コイウタで大波乱!3連単228万/G1復刻
<G1プレーバック:ヴィクトリアマイル>
プレーバック日刊スポーツ! 過去のヴィクトリアマイルを紙面で振り返ります。2007年は、歌手前川清が所有する12番人気のコイウタが勝ち、3連単228万3960円の高配当が生まれました。
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<ヴィクトリアマイル>◇2007年5月13日◇1600メートル◇4歳上牝◇出走18頭
今度は歌手前川清(58)が穴を空けた。短距離女王を争う第2回ヴィクトリアマイル(GI)が東京競馬場で行われ、前川の持ち歌「恋唄」から命名したコイウタ(牝4、奥平)が12番人気を覆し優勝した。芸能人馬主では女優の故高峰三枝子さん(52年=桜花賞、オークス)以来55年ぶりのG1級重賞の勝利だった。北海道でテレビ観戦の前川も「まさか勝つとは・・・」と驚いた。3連単228万3960円はG1史上3番目の高配当。荒れる春。何が起こるか分からない。
前川は都内で開かれた祝勝会に無精ひげのまま駆け込んだ。休日を過ごすため長崎でも神戸でもなく、北海道にいた。「馬を見ていれば気持ちが落ち着くかな」と知り合いのいる競走馬の繁殖牧場に足を運んだが、レースをテレビ観戦するうちに落ち着かなくなる。「目がくらんだってのは初めて。まさか勝つとは・・・」。無意識に机をたたき、両手を突き指した痛みで目を覚まし、緊急帰京した。
祝勝会場でコイウタを共同所有する社台ファーム吉田照哉代表らと抱き合った。81年に馬主登録をしてから27年目の悲願達成は、北島三郎、和田アキ子ら数々の芸能人馬主が手にしていない55年ぶりのG1級勝利だった。
荒れるG1が続く。前週のNHKマイルチャンピオンシップは17番人気のピンクカメオが勝ち、3連単973万9870円はJRA史上重賞最高配当だった。波乱を象徴するように、勝ち馬の国枝師が新潟に出張中の快挙だったが、今度は著名人馬主が不在のまま表彰式が行われた。
ただし、前川は26年で50〜60頭を所有し、計11勝したうち表彰式で口取りを経験したのは4度だけ。コイウタが出走した昨年の桜花賞は競馬場で観戦したが3着に終わった。験担ぎの意味も込めて現場には極力、足を運ばない。愛馬の単勝馬券も買っていない、無欲の勝利だった。
本業の歌では悪い方で波乱があった。昨年9月、大阪で予定したディナーショーのチケット代(推定1600万円)をイベント業者に持ち逃げされた。ショーは中止。しかし、今月9日に都合のついた購入者を無料招待し、自費で代替公演を行った。直後の吉報に「悪いことの後には良いことがあるんでしょうね」と実感を込めて言った。
昨春のオークスで「右肩ハ行」で競争中止に追い込まれるハプニングもあったが、前走のダービー卿CTの2着を経て晴れ舞台に戻った。レースの優勝賞金は9000万円で約8割の7200万円が馬主に支払われる。吉田代表と共同所有で、前川には3754万5600円が配当される。16戦5勝のコイウタの総収得賞金は2億3629万2000円。前川は約9500万円を手にしている計算だが「トータルではマイナスです」と、多額の経費が掛かる馬主の本音も口にした。
「コイウタちゃんには長く走ってほしいけど、繁殖牝馬になれば夢が続くよね」と話し、引退させたい意向も示した。ただし、吉田代表によると次走は米ロサンゼルスで行われるキャッシュコールマイルに決定。恋唄の歌詞は「ほんのみじかい夢でも とてもしあわせだった」。いい意味で裏切られたのだが、前川は酔いながら「せめて今夜だけは」と叫んだ。新曲のタイトルで喜ぶところが、芸能人馬主の本領だった。
◆恋唄(こいうた) 72年7月25日、作詞阿久悠氏、作曲鈴木邦彦氏のコンビで内山田洋とクール・ファイブが歌った代表作の1つ。愛しあいながら別れざるを得ない男女の悲哀を描いた曲。前川は87年にメンバーから脱退したが、リメークバージョンをアルバムに収録するなど、お気に入りの1曲。
※記録と表記は当時のもの