【坂口正大元調教師のG1解説】馬の力を100%引き出した川田と横山典の名勝負

<NHKマイルC>◇8日=東京◇G1◇芝1600メートル◇3歳◇出走18頭

<坂口正大元調教師のG1解説>

マイル戦でも折り合いは大事です。今回の前後半800メートルずつのラップは45秒6-46秒7。前半の方が1秒1速いですが、1600メートル戦でこれくらいなら平均の部類です。基本的には好位勢に有利なはずでしたがダノンスコーピオンは中団から差し切りました。

ジャングロが出遅れたことにより、思ったより流れが落ち着き、先行勢には行きたがる馬が目立ちました。1番人気セリフォスも好位で若干、行きたがっていました。対照的に、スコーピオンは大外枠からでも気負うことなく中団へ。3角からじわっと位置を上げ、先行集団の直後につくと、直線では川田騎手が追い出しを待って待って、ここぞのタイミングで抜け出しました。最後は首差ですから、完璧な仕掛けでした。

状態が良かったことも大きな勝因でしょう。2走前の共同通信杯は不可解な7着敗戦でしたが、完調ではなかったという談話も目にしました。その後は間隔をとって立て直し、前哨戦のアーリントンCから連勝で戴冠しました。安田隆厩舎はスコーピオンの父ロードカナロアを手がけ、その産駒も多く管理しています。体調が悪い時にどう立て直すのか。父や他の産駒と同じ方法でなくとも、経験則はあったはずです。同日の新潟大賞典を勝ったレッドガランも同厩舎のカナロア産駒。お見事でした。

2着マテンロウオリオンは最後方付近から上がり最速の脚で追い上げました。首差だけ及びませんでしたが、すごいスピードでした。大外スコーピオンが馬場の真ん中を抜け出し、最内オリオンが大外強襲。川田と横山典、2人の名手がそれぞれに馬の力を100%引き出した名勝負でした。

最低人気で3着のカワキタレブリーには正直、驚きました。同日朝に行われたケンタッキーダービーもそうですが、レースに参加さえすれば、どの馬にもチャンスがある。それが競馬です。(JRA元調教師)

NHKマイルCを制したダノンスコーピオン(撮影・柴田隆二)
NHKマイルCを制したダノンスコーピオン(撮影・柴田隆二)
4コーナーを回るダノンスコーピオン(左から4頭目)(JRA提供)
4コーナーを回るダノンスコーピオン(左から4頭目)(JRA提供)