【コラム】“三位一体”の勝利 考えられない仕掛け、応えた馬も見事です

<坂口正大元調教師のG1解説>

<菊花賞>◇24日=阪神◇G1◇芝3000メートル◇3歳牡牝◇出走18頭

“三位一体”の勝利とでも言いましょうか。ジョッキー、陣営、そしてタイトルホルダー。皆が同じ方向を向いた、チーム力による逃走劇でした。

象徴的だったのはスタート直後です。横山武騎手は手綱を押して押して、ハナを奪いました。これから3000メートルを走るという時にあれほど仕掛けるのは普通、考えられません。前走のセントライト記念(13着)で包まれて競馬にならなかったことが、よほど悔しかったのでしょう。強い気持ちが見えました。

ただし、まだ22歳の若手騎手です。彼1人の考えではなかったと思います。栗田師もオーナーも同じ考えでなければ実行できない、思い切った作戦でした。

加えて、馬の操縦性と心肺機能も特筆です。ハナへ行ったものの、スタンド前で行きたがったり、ペースが速くなれば自滅します。1000メートルごとのラップは60秒0-65秒4-59秒2。横山武騎手は平均やや速めのペースで入り、いったん落として、最後にまた上げています。見事な配分ですし、応えた馬も見事でした。例年の京都より阪神の方が直線が短く、逃げ馬にはいいコースでしたが、ねじ伏せるように後続を突き放した勝ち方を見ると、京都でも勝っていたでしょう。

惜しむらくは父ドゥラメンテが死んでしまったことですが、この世を去った年に後継種牡馬が誕生しました。皐月賞、ダービーを勝ちながら、故障で出走できなかった菊花賞を産駒が制したことは、幻の3冠馬も喜んでいるでしょう。

2着オーソクレースは勝ち馬には完敗でしたが、大外枠を克服してよく伸びました。2着争いを制したのは能力です。3着の牝馬ディヴァインラヴは立派でした。牡馬に好位から真っ向勝負を挑み、力を見せました。この2、3着馬はエピファネイア産駒。長丁場に強い血統です。4着ステラヴェローチェ、13着レッドジェネシスは不良馬場の神戸新聞杯を走った影響があったのかもしれません。(JRA元調教師)

タイトルホルダーで菊花賞を逃げ切って人さし指を突き上げる横山武史騎手(撮影・白石智彦)
タイトルホルダーで菊花賞を逃げ切って人さし指を突き上げる横山武史騎手(撮影・白石智彦)