デアリングタクト“横綱競馬”際立つ上がり3ハロン

<坂口正大元調教師のG1解説>

<秋華賞>◇18日=京都◇G1◇芝2000メートル◇3歳牝◇出走18頭

人馬の信頼関係がはっきりと見て取れました。松山騎手はデアリングタクトの力を信じていました。1コーナーからずっと外めを回り、いつでも動ける中団の外に待機。内に入れて包まれるより、距離をロスしても馬群の外を安全に、スムーズに。そういう競馬でした。それでも勝てる。厚い信頼が見えましたし、馬も見事に応えました。

3~4コーナーでも早めに上昇を開始。これまでの直線勝負とは違う仕掛けは、もちろん京都の内回りを意識したのもあったと思いますが、ここから動いても押し切れるという自信の表れでしょう。過去4戦はすべて上がり3ハロンが出走馬で最速でしたが、今回は2位タイ。これが逆に、デアリングの“横綱競馬”を際立たせました。

無敗での牝馬3冠は史上初です。過去に2頭いる無敗の牡馬3冠より難しいのは確かです。牝馬は必ず、春にフケ(発情期)が来ます。その時にレースになると、そちらへ気が行ってしまい、イライラして、全能力を発揮できません。そのため、1回くらいは負けてしまうものなのです。

もちろん、絶対的な能力がないと3冠馬にはなれませんが、プラスして「運」も必要です。今回は馬場が水分を含み、勝ち時計が2分を切らなかった(2分0秒6)のも、緩い馬場をこなせるデアリングには好都合でした。また、外枠もそうです。さらには、直前の10Rを持ったままで勝ち、4戦4勝としたレイパパレが抽選で秋華賞を除外になっていたのも、1つの運だったと私は感じます。

松山騎手は返し馬を終えて、輪乗りをしていた時に手袋を外しました。ゴール後に指を3本立てた3冠ポーズを素手でするためなのか、手綱から伝わる感覚を大事にするためなのか、理由はわかりませんが、重圧のかかるレース直前の冷静な行動に感心しました。人馬とも今後の活躍が楽しみです。(JRA元調教師)

秋華賞を制し無敗の牝馬3冠を達成した松山騎手とデアリングタクト
秋華賞を制し無敗の牝馬3冠を達成した松山騎手とデアリングタクト