ヴァデニ2着、世界の名手スミヨンが泣いた これが凱旋門賞 武「みんな勝ちたいと思っている」

日本馬4頭が参戦した第101回凱旋門賞(G1、芝2400メートル、2日=パリロンシャン)は、英国の5歳牝馬アルピニスタの優勝で幕を閉じた。日本馬の最先着は逃げたタイトルホルダー(牡4、栗田)の11着だった。約1週間、初の現地取材にあたった奥田隼人記者は、レース直後に目撃した名手の涙に、欧州ホースマンたちの本気度を感じた。「ケイバラプソディー」で振り返る。

凱旋門賞後のパドック。引き揚げてくる日本馬陣営の取材を終え、少し離れた検量室前へ向かう時だった。場内が優勝馬アルピニスタの祝福ムードに包まれる中、泥だらけの顔を拭いながら人知れず涙を流すジョッキーがいた。ヴァデニで2着に敗れたC・スミヨン騎手(41)だった。その場面に通訳はおらず、涙の意味を聞くことはできなかった。ただ、凱旋門賞にかけていた本気度は、言葉を介さずとも伝わってくるものがあった。

これまで03年ダラカニ、08年ザルカヴァで同レース2勝。それでも週中に取材した際には、日本馬オルフェーヴルで2年連続2着(12、13年)に敗れたことを非常に悔しがっていた。「他のレースにはない特殊な要因や、いろんな運も左右するのかもしれない。世界最高峰にして、本当に勝てそうで勝てない難しいレース」。そう表現していた。

レース2日前には肘打ちで他の騎手を落馬させ、60日間の騎乗停止処分を受けた。もちろん、この行為は決して許されるものではない。それでもすぐに謝罪し、多くの批判を受けながらも騎乗を続けたレースでもあった。期するものもあったのかもしれないが、数々のG1を勝ってきた世界的名手が、敗れて涙を流すレース。それほどまでに本気で取りにくるのが、凱旋門賞なのだと感じた。

日本人騎手で最多、10度目の騎乗を終えた武豊騎手はレース後、「特別なレースだと思います。みんなが目指しているレースですから。日本人だけが勝ちたいと思っているわけじゃなく、みんな勝ちたいと思っていますからね」と振り返った。もちろん、日本競馬界にとっても凱旋門賞制覇が悲願であることに変わりはない。

各国の本気と本気がぶつかり合う大一番。現地で初めて取材して、日本で画面越しに見ていた時よりも増す思いがあった。いつの日か、日本馬が勝つ瞬間をこの場所、この目で見たいと。【奥田隼人】

◆日本馬VTR レース直前から降り出した豪雨の中のスタート。好発から飛び出したのは10番ゲートのタイトルホルダー。鞍上の横山和騎手が積極的に促し、内ラチ沿いに寄せてハナを主張した。ディープボンドはタイトルを見ながら好位の外を追走。大外枠から出たステイフーリッシュも中団の外に構える。ドウデュースは後方3、4番手の内で脚をためた。

逃げるタイトルは2番手ブルームのマークを受けるが、フォルスストレートから直線にかけて後続を突き放していく。ボンドは苦しくなって位置を下げ、フーリッシュも馬群にのみ込まれる。ドウデュースは後方のまま置かれる展開に。タイトルは直線も懸命に粘ったが、残り300メートル付近で、抜群の手応えだった勝ち馬アルピニスタにかわされ、11着に終わった。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)

2日、凱旋門賞で騎乗したヴァデニで2着に敗れ、涙を見せるスミヨン騎手(撮影・奥田隼人)
2日、凱旋門賞で騎乗したヴァデニで2着に敗れ、涙を見せるスミヨン騎手(撮影・奥田隼人)
2日、ドウデュースで挑んだ凱旋門賞を終え、レースを振り返る武豊騎手(撮影・奥田隼人)
2日、ドウデュースで挑んだ凱旋門賞を終え、レースを振り返る武豊騎手(撮影・奥田隼人)