キングズガード 末脚に萌え~/坂井コラム第44弾

皆様、いかがお過ごしでしょうか。大変な状況ではありますが、ここまで競馬開催が行われたのは競馬関係者の皆様と、競馬ファンの皆様のおかげだと思います。イチ競馬ファンである私は心の底から「ありがとうございました」と言いたいです(いや、お前ナニモンやねん)というわけで、コラムの本題に入りましょう(笑い)。

自粛生活の続く中、「大掃除をするのによい機会やん」ということで、いらないものと「サヨウナラ」しようと整理を始めたら、思っていたよりも物が多くて、驚きました。ただ処分するのもなんだかなぁと思い、使えそうなものは再利用してもらおうと、リサイクルショップさんに引き取ってもらいました。

「次につながるサヨウナラ」だと思うと、良いお別れのような気がして満足な大掃除となりました。自己満足ですけどね(笑い)。物との間にも「良いお別れ、そうではないお別れ」があるように、人間にもそれはありますよね。私は脳天気な性格なので「そうでないお別れ」をした相手のこともその事柄もたいてい忘れてしまいます。なので、お友達からよく心配されます(笑い)。

しかし、お馬さんとのお別れは良いものも、そうでないものもよく覚えています。そもそも、良いお別れって何よ? と思わはりますよね。これは私個人の意見ですが、私にとっての良いお別れは競走馬としての人生をまっとうして生まれ故郷に帰るとか、第2の馬生を送るなどの「次につながるサヨウナラ」です。特に私は牝馬を担当することが多かったので、生まれ故郷の牧場に繁殖牝馬として帰っていく娘ちゃんたちを見送る時、「また会える」という思いと、「彼女たちの子供たちにも会える」という次につながる楽しみがあるので幸せな良いお別れだったと思っています。

実は先日、大好きなお馬さんが引退しました。彼の名前はキングズガード君。2017年プロキオンSの優勝馬で、常に重賞戦線で差のない成績を収めていたお馬さんなので皆様もご存じなのではないでしょうか。

私は、最後の直線で飛んでくる彼の末脚にいつも興奮しておりました。あまりにも好きすぎて、フェブラリーSや、チャンピオンズCだけでなく、地方競馬に参戦する時も現地まで行く、キングズガード君の追っかけでございました(笑い)。

彼と出会ったのは2016年の秋。それまでの彼の活躍も知っていましたが、生キングズガード君とはこの時が初対面で、私は彼に一目惚れをしました。「なんて小顔でイケメンなの!」。これが第一印象でした。ダートで走るお馬さんというのはどちらかというと筋骨隆々でごついイメージがあったのですが、彼は小柄でしなやかな体形をしていて、まさに私好みでした。

それから、私は彼の追っかけをするようになりました。彼がレースに出走する時は出来るだけ現地に行ったり、厩舎に会いに行かせてもらったりしていました。追っかければ追っかけるほど、彼の魅力にひかれていきました。いつもはつらつとしていて若々しいところや、小柄に見えた体形は年を重ねるごとに筋肉でパーンとはり、ますますカッコよくなっていくところ、手入れをしてくれはる担当厩務員さんに甘えるところも魅力的でした。

レースの後、厩舎にお邪魔すると「俺頑張ったやろ?」と言って額をスリスリしてくるところなんて、胸キュンものでした。なので彼がプロキオンSを勝った時はうれしくて泣きました。ただ、残念なことに私はその時、体調を崩して現地に行けなかったのです。

そのことは心残りでしたが大好きなガード君が重賞を勝ってくれたことは、厩務員さんを辞めてこれからどうなるんやろうと不安に思っていた私の背中を「大丈夫やからそのまま前進やー」とドンっと押してくれたような気がしていました。

それからも彼は毎回全力の素晴らしいレースでワクワクさせてくれはりました。今年9歳になっても若々しくはつらつとした姿で、重賞戦線を沸かせていましたが、残念ながら引退となりました。しかし彼は生まれ故郷の牧場に戻り、乗馬として第2の馬生を送るそうです。

彼が牧場へ旅立つ日、本当はトレセンまでお別れに行きたいなと思っていました。しかしこの状況なので、会いに行くことはかないませんでした。

ですが、彼は生まれ故郷に戻るので、これは「次につながるサヨウナラ」だと思っています。だから、このお別れは「良いお別れ」だと思っています。

では「そうでないお別れ」ってなんでしょうか。それは2度と会えないお別れだと思います。私も経験がありますが、これほどつらいことはありません。しかし、その経験をしたことで「無事に自分の所に帰ってきてくれることはあたりまえではない」ということをそのお馬さんは私に教えてくれました。

それ以来、後悔しないように担当馬に愛情表現をし、全力で向き合っていこうと決めました。そう考えると、悲しい別れでしたが、私が厩務員さんをしていくにあたって忘れてはならない大事な出来事だったと思います。

この出来事があってから、お馬さんだけでなく大切な人たちにも同じ思いでおります。特に今、世界がこのような状況なのでますます強く感じています。

今回は真面目なコラムになってしまいました。そんな思いを胸の片隅に抱きつつ、春競馬最後のG1宝塚記念を楽しもうと思います。

それでは、皆様ごきげんよう。

キングズガード君の末脚にいつも興奮しておりました
キングズガード君の末脚にいつも興奮しておりました
担当厩務員さんに甘える所もキングズガード君は魅力的
担当厩務員さんに甘える所もキングズガード君は魅力的
キングズガード君とは「次につながるサヨウナラ」です
キングズガード君とは「次につながるサヨウナラ」です