楽しみも苦しみもレコード娘ムーコちゃん/坂井コラム第26弾

皆様、いかがお過ごしですか?

さあ、いよいよこのコラムも今年最後となりました。1年はほんまに早いですね。

この原稿を書いている今、テレビで衝撃の瞬間を目撃しています。

3歳の牝馬が日本レコード(ワールドレコードか)でジャパンCを勝ってしまったのです。

「アーモンドアイ」号、強い馬だとは思っていましたが、一線級の馬がたくさん出走している中、突き放して勝つのやから、鳥肌がたちました。

強い女の子が大好きな私は、「アーモンド」さんのファンになりましたね。

厩務員さんをしていても「レコード」というのはなかなか出るものではありませんし、ましてや担当馬が「レコード」タイムで勝つということもなかなかあるものではありません。

ここで前回に続いて私の小さな自慢を聞いてください。またかよと言わずお付き合いください(笑い)。

実は私、厩務員生活をしていて、1度だけ担当馬がレコード勝ちしてくれたことがあるのです。

「2歳・札幌・芝・1200メートル」を1分9秒5という時計でレコード勝ちしました。これが2012年のことで、いまだに記録として残っているのが私の小さな自慢です(笑い)。

この記録で私に初めてのレコード勝ちをプレゼントしてくれた娘ちゃんが「アメージングムーン」号と言って、あのローレルゲレイロ号の妹ちゃんでした。

私は、彼女のことを「ムーコ」ちゃんと名付けて新馬の頃からずっとコンビを組ませてもらいました。

ムーコちゃんと初めて会った時の印象は「なるほど、さすがゲレイロの妹!」と感じるスピードと体の柔らかさがありました。


彼女の場合は体が柔らかいを通り越して、あまり見たことのない体勢になることもありました。彼女が2歳の頃、函館に初めて来たときのことです。

初めての場所ということもあったのでしょう。何かに(何かはわからなかったですが)驚いた彼女は「うへーん」といななきながら、地面にむかって横向きに倒れこむような体勢になったのです。まるで、オートレースでコーナーを曲がる時のバイクのようでした。その時私は、ムーコちゃんをひいていたのですが、乗ってくれていた助手さんはあっという間に地面に転がっていました。ムーコちゃんはというと、全くこけることなく普通に立ち上がり転がった助手さんを見つめていました。

助手さんは「一瞬のこと過ぎて、何が起こったかわからなかった。気がついたら地面にいたよ」と言っていましたし、周りで見ていた人たちも「あの状態でひっくり返らないこの馬はすごいな」と言っていました。もちろん横にいた私はすべてを目撃していましたから、ムーコちゃんの動きの速さと、体の柔らかさに驚いたのと同時に頭の中で「汚れた英雄」の曲が流れていました。古いか(笑い)。

だから、このレコード勝ちも彼女の身体能力が高かったからだと思います。

ただひとつ残念なことは、以前はレコード勝ちをすると記念として「レコードメダル」というものがいただけていたそうなのですが、私が勝たせてもらった頃はそれがなくなってしまったのでいただくことは出来ませんでした。

きっとそのうち、この記録も塗り替えられることでしょう。皆さんからしたら「そんなちいさなことで・・・」と思われるかもしれません。しかし、私にとってはこうして記録に残るお馬さんと出会えたことは、とても特別な思い出です。

このムーコちゃん、その後も頑張ってくれてファンタジーSで3着になってくれたり、厩務員生活をしていて初めて「ファンレター」なるものをいただいたり(私ではなくムーコちゃんにですが)いろいろな経験をさせてもらいました。

もちろん、楽しいことばかりではなく、大変なこともありました。

彼女は競馬の週になると「疝痛(せんつう)」をおこす体質でした。繊細な性格と胃腸が強くないというのもあったのでしょう。競馬が近づいているのを計ったように「お腹痛いよー」というのです。その週が競馬(当該週)である場合、腹痛であっても使えるお薬が限られてきます。なので、少しでもお腹の動きが良くなるようにずっとひき運動をしたり、硬い飼い葉だと消化に良くないのでお湯でふかしたり(人間でいうおかゆみたいなもの)、普段の飼い葉も胃腸にやさしいといわれる物をひたすら勉強して試したりしました。毎日、ムーコちゃんの飼い葉作りは他の馬の倍ほど時間がかかったし、休みの日も返上して作りに行ったりしていたので大変でしたが、すごく勉強させてもらったお馬さんで、今では良い思い出です。

さて、私の小さな娘ちゃん自慢はこのくらいにして、今年の競馬を振り返ってみると「女性」が注目される年だったように感じます。


世界では凱旋門賞を連覇した「エネイブル」号。日本の競馬では先ほども書いた「アーモンドアイ」号。紅一点「藤田菜七子騎手」の活躍。今年の騎手課程の試験にも女性が合格したと聞きました。競馬が女性で盛り上がってきているように感じる半面、実は女性厩務員さんの数は減ってきていて、大変さみしく思います(私もやめてしまったんですが)。だから、私はこのコラムや、何らかの形でこれからも「女性厩務員さん」を応援できればなと考えています。皆さんも良いアイデアがあれば教えてくださいね。

さて、今年の有馬記念は話題になるお馬さんも出走しますし、これぞドリームレース。どんなレースをしてくれるのでしょうか。

残り少なくなった今年の競馬を存分に楽しみましょう。それでは、皆様、ごきげんよう。よいお年を!

12年6月、函館でアメージングムーンの手綱を引く坂井さん。
12年6月、函館でアメージングムーンの手綱を引く坂井さん。