昔付き合った彼女が有名になって自慢する元彼みたい/坂井コラム第25弾

皆様、いかがお過ごしでしょうか。

「JBC」が、初めて中央競馬の京都競馬場で行われました。応援しているお馬さんが何頭か出走していたので、久々に生観戦しに行きました。現場の臨場感と高揚感は何とも言えず、興奮しました。一生懸命走るお馬さんと共に戦う関係者の方たちを近くで見ていると「ええ仕事をしていたな」という思いと「もう1回したいな」という思いがあふれてきました。

今回は「2歳G1特集号」やのに、何で「JBC」のお話から入ったかと言うと、私の小さな自慢話を皆様にきいていただきたくて、書きました。というのも「JBCレディスクラシック」で見事な勝利をおさめた「アンジュデジール」号。私がお世話になっていた昆厩舎のお馬さんです。実はこの「アンジュちゃん」、初勝利の時は私が担当していたのです。ね、小さな自慢でしょう(笑い)。

私と2歳の彼女との出会いは札幌競馬でした。函館でデビューしていた彼女の第一印象は「なんてかわいらしいお馬さんなんや」でした。コロンポテンとした体形で、胸前の筋肉が厚くパワーがありそうでした。ONとOFFがはっきりしていて調教は走るし、気が強そうに感じましたが、普段は人が大好きでなつっこいし、女の子と思えないくらい飼い葉も食べるし、そして、度胸がすわっているのか食べ終わるとボテーンと寝転がっていびきをかいて寝るのです。「なんておもろい子なんや、1日見てても飽きひんわ。でも、こんなのんびりしていて、競馬はどうなのかな」なんて感じていました。

しかし、そんな心配なんてなんのその。あっさりと勝ってしまいました。私は、この札幌開催が終われば厩務員さんを辞める予定だったので、彼女とのコンビはこれが最後でした。「まだまだ、これから楽しみのあるお馬さんやな」と感じましたが、G1を勝つまで成長していましたね。だから、彼女とコンビを組ませてもらったことは、私にとっては大切な思い出です。昔付き合った彼女が有名になって自慢する元カレみたいですが・・・(笑い)。

うれしくて翌週、昆厩舎に遊びに行きました。昆先生におめでとうございますと伝え、「差し返す根性に興奮して叫んでしまいましたよ」と伝えると「千晃の闘魂注入が残ってたんやな」と冗談でもうれしい言葉をくれはりました。

先生といろいろな思い出話をしていると、あることに気付きました。私は2歳(特に牝馬)に結構縁があって、よく勝たしてもらったということです。特にそのお馬さんにとって1回しか使えない、新馬戦で勝たしてもらった数はかなり多かったと思います。2歳で賞金を稼ぐと、重賞を使うチャンスも増えますし、楽しみだって増えてきます。そう考えると、私はほんまにいい競馬をさせてもらっていたなと思いました。

でも、そんな楽しい厩務員生活を送れたのは私の力では決してなくて、お馬さんのおかげなのもあります。そして、そのお馬さんとコンビを組ませてくれた先生のおかげでもあるよなと思いながら「12年ほど厩務員さんをしてかなりいい競馬させてもらったし、大きなけがもせずこれたと思う。担当したお馬さんも手のかからない素直な子が多かったように思うんですが・・・」と言うと、先生は「もちろん、そういうことも考えながら担当を決めていたからね」と言い、こう続けました。「まず、厩務員さんたちや助手さんがケガしないように配慮するのは、ケガをして仕事ができなくなってはつまらないでしょ? そして何より、痛いのは本人だしね。特に千晃の場合は女の子だし、そこは気を付けてたよ。それと担当馬に素直な子が多かったと感じたのも、当歳の頃からその馬を見てきて、その馬の性格や性質と、働いている厩務員さんたちの性格を考えながら相性を考えているんだよ。だから、千晃にはやんちゃなタイプよりも、勝ち気やけど人に素直な女の子とコンビを組んでもらうことが多かったんやで」といわはりました。

それを聞いて、仕事中はあんなに厳しいし怖かったのに、めっちゃ私のこと考えてくれてはったんや! とうれしく思ったのと同時に、そういうことまで気をつかってたんやと思い、「調教師さんのお仕事は私が思ってた以上にいろいろ考えないといけないことがあるんですね」(失礼なこと言うてますね)と言うと、「それが、僕の仕事。大変と思ったこともないよ」といわはるので、「でも、女の子を採用することで気をつかう事も多かったんちゃうんですか?」というと「最初は千晃の明るさが厩舎を明るくしてくれると感じて採用したんや。働いているところを見ていて担当馬に対する研究心があるし、そして何より強運を持っていたからな。だから女の子というより千晃を採用したんは間違ってなかったと思ってるよ」と笑顔で話す先生を見ながら、師匠が昆先生でほんまによかったな。私のことをちゃんと見守ってくれた先生のところやったからこそ、幸せな厩務員生活を送れたんやろうなと感じました。だから私にとって、厩務員さんを辞めても昆厩舎は大切な場所であり、昆先生はこれからも師匠です。

帰りに2歳の頃とは見違えるほどたくましくなった「アンジュちゃん」ににんじんをあげて、先生に「また、遊びにきますね」と言うと、「いつでもおいで」と見送ってくれはりました。

さて今回も2歳G1のお話から少しずれてしまいましたが・・・(笑い)。これからの、2歳たちの熱いレースを楽しみに思いながら、今回はこの辺りで。皆様、ごきげんよう。

JBCレディスクラシックを制したアンジュデジール(左)
JBCレディスクラシックを制したアンジュデジール(左)