馬にあったステージを海外にも・・・森調教師の行動力

20日に行われたサウジカップは英国の4歳牡馬ミシュリフが、直線入り口で先頭に立った米国のシャーラタンを競り落として優勝。優勝賞金の1000万ドル(約10億5000万円)を手にしました。ミシュリフは凱旋門賞2勝のエネイブルと同じジョン・ゴスデン厩舎の所属馬で、通算成績は9戦5勝、2着1回。父のメイクビリーヴは仏2000ギニー(G1)やフォレ賞(G1)に勝った名マイラー。その父は現在、北海道日高で種牡馬になっているマクフィです。ミシュリフは2100メートルの仏ダービー(G1)を勝っていますが、血統的にはゴスデン師がめざす凱旋門賞(G1)はいささか距離が長いような気がします。欧州に戻ってから、どのような路線を進むかが見物です。

逃げたニックスゴーを目標にして勝ちに行ったシャーラタンのマイク・スミス騎手は直線に向いて内ラチぴったりを走って勝ちパターンに持ち込みましたが、米国の競馬場にはあまりない400メートル続くホームストレッチでミシュリフの餌食になってしまいました。来月27日のドバイWC(G1)の出否はまだ明らかにされていません。

日本から単騎挑戦したチュウワウィザードは米国の2頭がつくるペースについて行けずに勝ち馬から大きく離された9着に終わりました。次走のドバイWCでの変わり身に期待したいと思います。

サウジカップの前に行われたサウジダービー(ダート1600メートル)の結果には驚かされました。直線で堂々先頭に立ったピンクカメハメハはこれがダート初挑戦。それをまったく感じさせない強さでした。森厩舎はフランスゴデイナと2頭出しの予定でしたが、フランスゴデイナが出国直前に熱発したため急きょ単騎での参戦。英国ブックメーカーの人気でも12頭立ての7番人気という低評価でしたが、それをあざ笑うかのような快勝でした。破った相手も昨年の米国2歳戦線で常に上位を争い、今年の飛躍が期待されるコワン(2着)やUAE2000ギニートライアルまでデビューから3連勝していたレベルスロマンス(4着)、UAE1000ギニーまで4連勝で臨んだソフトウィスパー(5着)など、なかなかの顔ぶれ。フロックでの勝利ではありません。

それにしても称賛すべきは森調教師の視野の広さです。フジヤマケンザンの香港国際カップ、シーキングザパールのモーリスドゲスト賞、アグネスゴールドのアベイユドロンシャン賞、ジュライカップなど成功例だけにとどまらず、その馬にあったステージを海外に求めて実行する行動力には目を見張ります。

一番驚いたのは16年のUAEダービー(G2)に自厩舎の2頭を派遣し、当時は国内でも無名だったユウチェンジ(3着)とオンザロックス(5着)で合計26万ドル(約2730万円)を稼いだことです。ユウチェンジはいまだ1勝馬ながら合計で6000万円近い賞金を稼ぎ、オンザロックスは4勝を挙げて賞金額も1億円に手が届くまでになっています。

推測ですが、ピンクカメハメハについては、森調教師にしても内心では「勝つまでは・・・」と思っていたはず。結果は優勝賞金の90万ドル(約9450万円)を獲得し、なおかつ秘められていた才能が引き出されたのですから勇気ある挑戦のしがいがあったというものです。ピンクカメハメハが次に挑むUAEダービーには仕切り直しとなるフランスゴデイナやヒヤシンスSで4着したタケルペガサスも参戦する模様です。

ダート1200メートルのリヤドダートスプリントはコパノキッキングの末脚が爆発。昨年2着のマテラスカイをかわして日本馬のワンツー。うれしい結果となりました。コパノキッキングの鞍上を任されたウイリアム・ビュイック騎手はレース後のインタビューで、日本競走馬のレベルの高さをアピールしていました。本当にそれを実感する競馬でした。6着だったジャスティンを含む3頭はドバイ・ゴールデンシャヒーンに転戦予定。こちらも楽しみになっています。(ターフライター奥野庸介)

※成績等は2021年2月25日現在。

※次回更新は3月12日になります。

浦河イーストスタッドにて。馬はエイシンヒカリ
浦河イーストスタッドにて。馬はエイシンヒカリ
新冠・優駿スタリオンにて。馬はミッキースワロー
新冠・優駿スタリオンにて。馬はミッキースワロー