その前年に海外未勝利だったのがうそのように、2019年は日本調教馬が海外で勝ちまくった年だった。

ドバイターフを年度代表馬アーモンドアイ(牝4、国枝)が勝利。クイーンエリザベス2世C(香港)をウインブライト(牡5、畠山)が勝利。ディアドラ(牝5、橋田)が英国でナッソーSを制し、オーストラリアではメールドグラース(牡4、清水久)がコーフィールドC、リスグラシュー(牝5、矢作)がコックスプレートを制覇。12月の香港国際競走ではヴァーズをグローリーヴェイズ(牡4、尾関)、マイルをアドマイヤマーズ(牡3、友道)、カップをウインブライトが制した。

日本馬の海外遠征として、異色だったのはアジア、中東、欧州を転戦したディアドラだ。

2月に中山記念(6着)を走った後はドバイターフ(4着)→クイーンエリザベス2世C(6着)→プリンスオブウェールズS(6着)→ナッソーS(1着)→愛チャンピオンS(4着)→英チャンピオンS(3着)→香港ヴァーズ(4着)と転戦した。

6月、プリンスオブウェールズSの翌週だったと思う。函館競馬場のスタンドで今後の目標を聞くと、橋田師はキッパリと言った。「これから先、どんなレースを走るかはわからないけど、必ず結果を出して帰りますから」。

師の言葉からわかるように、走ったレース以外にもいくつものレースを次走の選択肢として、陣営は考えていた。ヨークシャーオークスであったり、ヴェルメイユ賞であったり、オペラ賞であったり、凱旋門賞であったり、BCターフであったり・・・。

9月、愛チャンピオンSのレース後、橋田宣長助手は言っていた。「(走ることが決まった)一番の決め手は主催者の熱意です」。ニューマーケットに滞在し、さまざまな選択肢を持った遠征を行ったディアドラ陣営。その言葉には説得力があり、胸に突き刺さったというか、ふに落ちたというか・・・。「公正競馬は大事なことです。でも、競馬はすべてが公平というわけではないんです」。

主催者がどのような馬を呼びたいか、呼ぶためにどのような呼び掛けをするのか。飛行機の輸送、入厩する馬房や馬場へのリクエスト・・・、主催者とレースを選択する陣営との交渉、細かな費用の計算、そこには信頼関係が生まれる。

海外遠征はホームアンドアウェーであり、すべてが公平な条件ではない。外国馬がジャパンCに遠征してこないのは検疫方法がその理由の1つと言われる。施設の充実したトレセンで調整される日本馬に対し、競馬学校の検疫厩舎→東京競馬場の国際厩舎、2段階で隔離される外国馬。競馬は公正なものであるべきだが、すべてが公平ではない。

グロリアス・グッドウッド開催のナッソーSを制し、欧州10ハロン路線の最高峰、愛チャンピオンSと英チャンピオンSを走ったディアドラ。日本調教馬にとって、未踏の地を次々と開拓し、結果を出した。アイルランドは世界最大の馬産国ではあるが、日本からの直行便がある国ではなく、日本の競走馬とは縁の遠い場所だった。

年末、有馬記念の枠順抽選会後、かつてJRAロンドン事務所で駐在員として勤務していたJRA職員と会った。「アイルランドで日本の馬が走る日が来るなんて考えられなかったですよ」「そうですよねえ」「そのレースの馬券も買えるんですもんね」「そうですよねえ」。そんな会話になった。

9月14日、日本で海外馬券発売が行われた愛チャンピオンS。レパーズタウンのパドックでは主催者が配った日本の国旗が振られた。日本調教馬がアイルランドで、レパーズタウン競馬場で走った。今年の競馬を振り返ると、ディアドラ、オーナー、厩舎関係者の挑戦に今、あらためて拍手を送りたい。

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