今月末で定年引退となる東西8人の調教師にとって、今週土日の開催がJRAとしては最後となる。

栗東・中村均調教師(70)もその1人だ。28歳の時に史上最年少タイで調教師となり、JRA・G1を3勝するなど活躍。調教師会の要職も担ってきた「記憶に残る調教師」が40年以上にわたるキャリアに幕を下ろす。

調教スタンド2階の調教師席。定位置に座る中村師は多くの人に囲まれていた。「やっぱり最後なんだなと感じるね。1カ月ほど前から多くの送別会をしてもらったし、取材も多く受けたから」。ラストウイーク(調教は28日木曜まで)を迎えたベテラントレーナーはしみじみと話す。

調教師免許を取得したのは1977年。テンポイントが宿敵トウショウボーイを下し、有馬記念を制した年だ。現役では誰よりも古くから調教師をしている。当時、中村師は28歳。「調教師試験を受けられるのは28歳から。早く調教師になりたかったし準備をしていた」。麻布獣医科大で首席だった秀才は一発で難関を突破した。28歳での合格はもちろん史上最年少だ。

だが、88年の出来事がエリート調教師の意識を変えた。この年、中村師は36勝を挙げリーディング2位だったが、トップの調教師は病没した調教師の管理馬を臨時で引き受けていた。

「48馬房対18馬房で多勢に無勢。悔しかったけど、負けの美学のようなものを感じた。自分にはこんなのが合っているんじゃないかと。強い敵に立ち向かって、あと少しのところで負ける、みたいな」

それだけにマヤノトップガンの2着に敗れた95年菊花賞(トウカイパレス)や、スペシャルウィークの2着だった98年ダービー(ボールドエンペラー)は勝ったG1以上に印象に残っているという。

今週は土曜中山で楽しみな馬が出走する。春麗ジャンプSのトラストだ。「飛越でスピードが落ちない。熊沢騎手が天才と言っている」。今回も勝てば、障害デビューから3連勝。「もう僕の手からは離れるけど、オジュウチョウサンのライバルになってくれたらいいね」。今も巨大な敵へ立ち向かう夢を抱いている。【岡本光男】

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