メリット大きい「60日ルール」90日に延長で幅広がる海外遠征、日本馬はもっと勝てる

<角居勝彦元調教師 Thanks Horse(14)>

今月から海外遠征の「60日ルール」が90日に延長されたと聞きました。それまでは60日以内に帰国しなければならず、狙えるレースが限られていました。60日を超えると帰国後に輸入検疫10日と着地検査3カ月が課され、長くレースに使えないだけでなく下手をすれば競走馬として立ち直れなくなってしまうからです。

たとえば06年のメルボルンCを勝ったデルタブルースは、その翌月の香港ヴァーズへ使いたいと思っていました。しかし、直行すると海外での滞在が60日を超えてしまうため、いったん帰国しました。すぐ再出国するには競馬場で検疫を受ける必要がありましたが、国内のレースに使う馬ではないために認められず、結局は有馬記念(結果は6着)へ向かいました。

日本馬が毎年のように出走する凱旋門賞も、ローテーションの選択肢が増えると思います。「60日」だと、前哨戦は3週間前のトライアル(ニエル賞、フォワ賞、ヴェルメイユ賞)にほぼ限られます。ヴィクトワールピサが4歳の時には、8月中旬のインターナショナルSも考えましたが、60日を超えないようにすると現地到着から前哨戦までの調整期間が短くなってしまうため、最終的にはフォワ賞(渡仏後に左後肢の炎症で回避)を選びました。

これが「90日」なら幅が広がります。イギリスのほかにアイルランドやドイツという手もあるでしょう。前哨戦だけでなく、凱旋門賞の後にアメリカのBCへ向かうこともできます。

今の日本馬は強いですから、走れるレースが増えれば、もっともっと勝てるでしょう。世界の大レースを勝った日本馬が、海外で種馬として売れるかもしれません。そうなれば相当に大きなビジネスになります。

「60日ルール」は農水省が定めており、JRAが勝手に変えられるものではありませんでした。この改正は日本の競馬界にとってかなり大きなメリットがあると思います。一方で厩舎のスタッフが長期にわたって海外へ行きっぱなしになれば、国内に残ったスタッフへの負担が増すというリスクも出てくるでしょう。

私が調教師だった時に改正されていれば・・・などと「たられば」を言うつもりはありません。その時々のルールがあって、その時々の競馬があるからです。これから日本馬の海外遠征がどう変わっていくのか、楽しみにしています。

◆「60日ルール」 海外から輸入される馬には、輸入検疫10日、着地検査3カ月間が課される。ただし滞在期間や滞在先が一定の条件を満たした競走馬は、輸入検疫5日、着地検査3週間へと短縮される。従来は滞在期間が60日以内と定められていたが、今月から90日以内へ延長された。

90日ルールならローテーションの選択肢が増えると思います(写真は10年、国際検疫厩舎を出発するヴィクトワールピサ)
90日ルールならローテーションの選択肢が増えると思います(写真は10年、国際検疫厩舎を出発するヴィクトワールピサ)
凱旋門賞の主な前哨戦
凱旋門賞の主な前哨戦