牡牝3冠レース秋華賞と菊花賞 成長を伴う難しさ

<角居勝彦調教師 Thanks Horse(10)>

来年2月末で引退する角居勝彦調教師(56)が競馬を語る月イチ連載コラム「Thanks Horse」第10回は、牡牝3冠レースについて思いをつづる。自身は計10勝をマーク。一世一代の大舞台で勝つ難しさとすばらしさを説く。

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競走馬にとって3冠レースはまさにワンチャンスです。1度逃しても来年がある古馬のG1とは違い、能力があってもタイミングが合わなければ勝てません。まだ成長途上の過程で、デビューから1つでもとりこぼせば出走すら危うくなります。実力も運も必要です。それだけ難しいからこそ価値があります。

秋の秋華賞と菊花賞は、ひと夏を越しての成長が大きなポイントです。特に牡馬は伸び幅が大きいと思います。ただ、成長に伴う難しさも出てくるもので、春先の未完成の時期にはコントロールできていた馬が、秋には体力がついて制御できなくなることもあります。もちろん個体差はあります。例として、この秋の2つのレースで勝ってくれた4頭を振り返ってみます。

(1)04年菊花賞デルタブルース 体のつくりもストライドも大きく、走りがワンペースでした。夏を越して少しずつしっかりして、直前の九十九里特別を勝った時に、岡部さん(岡部幸雄元騎手)から「もう半年待てば良くなる」と言われたのを覚えています。ですが、目の前の菊花賞に飛びついてしまいました(笑い)。古馬になってメルボルンC(豪G1)も勝ってくれましたし、岡部さんの言葉は確かでした。

(2)11年秋華賞アヴェンチュラ ジャングルポケットには背中の緩い子が多く、この子もそうでした。骨折もあって春は無理せず、夏に復帰させると、柔らかさに芯が入って、いい成長をしてくれました。

(3)13年菊花賞エピファネイア 春先からすでに完成度が高く、手の内におさまらないところがありました。夏を越してグンと変わったわけではなかったですが、トモがしっかりしてさらにパワーアップしていました。牧場といい連携がとれていて、オンとオフを理解するようになってくれたのも大きかったです。

(4)17年菊花賞キセキ 跳びが大きくデルタブルースに似ていましたが、一瞬でスピードが上がるギアも兼ね備えていました。春はコントロールの難しさがありましたが、この頃には数々のG1馬が厩舎のスタッフを育ててくれていたので、それに対処することができました。

3冠レースは能力のある馬を選定するレースですし、勝ち馬の多くが繁殖でも結果を出しています。エピファネイアも初年度産駒からデアリングタクトを出しました。厩舎が近いのでよく姿を見かけます。牡と牝の違いもあって体つきはお父さんのイメージとは違いますが、走ることに前向きなのは(エピファネイアの母)シーザリオの血かもしれません。それでいて利口そうですし、厩舎でうまくつくっているのでしょう。

自分の厩舎にいた子が、繁殖として活躍してくれるのはもちろんうれしいです。他の厩舎であっても、親のような気持ちで産駒を見てしまいます(笑い)。秋華賞にはウチの厩舎の出走馬はいませんが、エピファネイアやルーラーシップの子には注目しています。(JRA調教師)

17年菊花賞を制したキセキ
17年菊花賞を制したキセキ