モーリス、海を越える血のロマン シャトル種牡馬で5度目の豪州滞在へ

さまざまな話題を提供する「ケイバラプソディー~楽しい競馬~」は、松田直樹記者が今年もオーストラリアに旅立つ種牡馬モーリス(牡11)をクローズアップする。今回が5度目の滞在。日本だけでなく海外でも有力産駒を生み出している同馬の血統、ロマンにあらためて迫った。

名馬の血が今年も南半球を駆け巡る。種牡馬モーリスが9日にシャトル種牡馬として、オーストラリアへ旅立つ。同国のアローフィールドスタッドは、20年を除いて供用初年度の17年から数えて5度目の滞在となる。昨年の種付け頭数156頭は日本での同146頭を上回った。立ち写真では舌をぺろり。その愛らしさも日豪で引っ張りだこになる一因かと思わせる。

父としての評価はうなぎ上りだ。初年度産駒のピクシーナイトが昨年のスプリンターズSを勝ったインパクトが大きく、現地ではマズが6連勝で短距離G1馬となり、ヒトツは豪G1・3勝を挙げた。種付け料は21年の4万4000豪ドル(約428万円)から、22年は8万2500豪ドル(約802万円)へと急騰。オーストラリアは香港市場への競走馬輸出が盛んで、香港でもG1・3勝を挙げていて、もともと高かった同馬の需要はさらに上昇した。

産駒の活躍は早くも海を越えた。だからこそモーリスの血統背景をもう1度振り返りたい。8代母デヴオーニアは社台ファーム創始者である吉田善哉氏の父善助氏が、アメリカより1929年(昭4)に導入した繁殖牝馬16頭のうちの1頭。いわば社台グループの礎をつくった馬だ。

7代母の第七デヴオーニアの孫であるメジロクインの牝系がメジロ牧場の隆盛を支え、日本の生産界を巡って13年5月の北海道トレーニングセールにて孫のノーザンファーム吉田勝己代表が落札したことで吉田一族の手元に戻ってきた。その後は年度代表馬となり、父となり、歴史に育まれた血が海外に飛び出す。こんなロマンがあるから、競馬は楽しい。

短い夏休みを終え、今年も9月1日から種付けシーズンがスタートする。社台スタリオンステーションの徳武英介氏は「11月まで3カ月間ほど種付けをして、牧場へ戻ってくるのが年内になるような約束をしています」と話す。着地検疫を終えた後の20、21日には、現地での種牡馬展示会も待っている。日本で熟成された血が今度は世界中で根を張る。遠くない将来を想像しつつ、続々と出てくる大物候補の活躍を見届けたい。【松田直樹】

◆モーリス 父スクリーンヒーロー、母メジロフランシス。11年3月2日、戸川牧場(北海道日高町)産。13年10月に吉田厩舎からデビューした。堀厩舎転厩後の15年から連戦連勝でG1馬に。15年年度代表馬選出など、通算成績は18戦11勝(G1・6勝、海外3戦3勝)。17年に社台スタリオンステーションで種牡馬入り。現4歳世代が初年度産駒。今年のセレクトセールでは、モシーンの21(牡)が1歳部門史上2位となる4億5000万円(税抜き)で落札された。

◆シャトル種牡馬 競走馬の繁殖シーズンは冬。北半球と南半球で正反対となる季節のずれを利用し、国を移動して1年間に2期の種付けを行うことを指す。今年はモーリスとアドマイヤマーズがオーストラリアへ、サトノアラジンがニュージーランドに向かう。3頭は年末に帰国予定。帰国後は来年2月に始まる国内の種付けシーズンに備える。

(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー ~楽しい競馬~」)

種牡馬モーリス。立ち止まるときはいつも舌をぺろり。
種牡馬モーリス。立ち止まるときはいつも舌をぺろり。