競走馬診療所・飯森さん 診て触って馬と会話

<獣医のお仕事・往診編>

栗東トレセンの「競走馬診療所」には約20人の獣医師が勤務し、馬をレースに送り出すため日々注力している。診察、入院馬のケア、手術・・・。連載「ケイバラプソディー」で馬専門「獣医さんのお仕事」を密着リポートする。まずは往診に同行した。【取材・構成=網孝広】

午前9時からのミーティングを終えると、“問診”が始まった。関係者の話を聞き、依頼を受ける。厩舎へ向かう往診車の運転中も無線で応答する。「1度診療所を出ると、しばらく帰ってこられないので」と獣医師の飯森麻衣さんは説明する。

最初の担当厩舎に到着し、まずは歩様チェック。助手に引かれた馬はゆっくり歩き、ややスピードアップ。飯森さんはじっと見つめる。「はいOK。元気です」。馬房では目のチェック。最初の往診で「出走診断」を終えた。「長期休養明けの馬は出走診断が必要。あの子は目をけがしていたので、確認しました」。また無線が入る。今どこか、何時に戻るか。多忙ぶりを物語るシーンだ。

次の厩舎では、馬が診療を嫌がった。翌日に手術を控える馬だった。落ち着かせ、聴診器で心音を聞く。血液や心電図は取っているが、手術前日の最終チェックを怠るわけにはいかない。「手術に耐えられる体かどうか。心拍に不整がないか。不整脈を持っていると危険なので」。テンションが高くなると、麻酔の効きが悪くなる。心身に細心の注意を払う。

「獣医師嫌いの馬はたくさんいる。痛いところしか診ないから」と笑っていう。3軒目の厩舎では、リハビリセンターから戻ったばかりの馬を診る。骨瘤(こつりゅう)があったという。歩様を見て、入念に前脚を触診。痛がらないか、膝を曲げ、ゆっくり確認する。「馬はしゃべれないので」。触診で馬と“会話”しているようだ。

獣医師は「調教監視」も交代で行う。調教を見守り、事故が起これば迅速に対応する。入院馬の往診では必要に応じて、点滴などの処置を施す。厩舎往診は多ければ午前中に10~15件、午後も出向く。捻挫、腫れ、外傷、発熱・・・。さまざまな状況に対応する。

「私たちは馬しか診られない。しかも競走馬のみ。全ての動物を診る免許はありますが、馬に特化して勉強している感じ」。昔から競馬が好きだった。今は獣医師として競走馬相手に奔走する。心掛けていることは? の質問にこう答えた。「馬に寄り添う。馬ファーストなんですけど、競走馬は競走に出るのがお仕事なので、それをサポートする」。365日、年中無休で診療。獣医師たちも競馬を支えている。(密着リポート「手術」編は後日、掲載します)

飯森獣医師は、診療後に馬と触れあう
飯森獣医師は、診療後に馬と触れあう