西浦勝一師、騎手人生大きく変えたJC日本馬初制覇

今年も、2月末で引退する調教師が語る「明日への伝言」を連載する。栗東・西浦勝一師(69)はジョッキーとして84年にカツラギエースで日本馬初のジャパンC制覇。「世界の西浦」と呼ばれた。調教師としてはテイエムオーシャン&カワカミプリンセスで「牝馬3冠」、ホッコータルマエでG1・10勝。その手腕は、師匠土門健司元調教師(故人)に培われたものだった。【取材・構成=網孝広】

父は高知競馬の調教師をしていました。その影響でジョッキーになりたいと思った。父は「中央のジョッキーを目指せ」と。父の知り合いの紹介で阪神競馬場の土門健司厩舎を紹介されて弟子入りしました。

69年にジョッキーとしてデビューしました。最初の2年、3年は成績が上がらなかった。そんな中でも土門先生は、馬主の反対があっても了解をとって、少しずつ乗せ続けてくれた。ジョッキーをかわいがるというか、親心みたいな気質がありましたね。

カツラギエースは土門先生のご子息(一美元調教師、故人)の管理馬でした。あのジャパンCは僕の人生を大きく変える1勝でしたね。大逃げ? 大逃げというより、後ろのペースが遅くなった。僕の馬が10秒台で飛ばしたわけでもない。他の馬がお互いにけん制しあって、ペースを遅くした。マイペースで走ると後ろが離れた。後で(映像を)見ると、10馬身以上離れていた。理想の展開。4角回るまで楽にきて、直線の坂を上がるまでは、絶対に追うのを我慢しようと。内からベッドタイム、外からシンボリルドルフが来ても、脚が残っていた。最後必死に追って追って追って、ゴールするまで勝ったと分からなかった。昨日のことのように思い出します。あのレースはミスターシービーがいて、シンボリルドルフがいた。東京競馬場が一瞬、静まりかえった。ミスターシービーも勝っていない、ルドルフでもない。「あ--」って。どの馬が勝った? ってことになって、みんな我に返ってビデオ見たら、カツラギエース。そこからまた、「うわーっ」となった。日本競走馬として初めてジャパンCを勝った。それが一番。そこが僕の人生を大きく変えたところでしょうね。気持ちの面も変わったし、周囲からの視線もある。それなりの振る舞いというか、(JCを勝った)ジョッキーとして気をつけて乗るように、という意識でしたね。

引退して調教師になりました。テイエムオーシャン、カワカミプリンセス、ホッコータルマエ、マイソールサウンド・・・1頭1頭に思い出があります。テイエムオーシャンはすごく敏感な馬で、一番手がかかった。この馬がいる時は、ずっと気が休まらなかった。最初、G1を取る馬をそういう馬で手がけて、後は楽だった。カワカミプリンセスはあれよあれよと連勝して、東京のスイートピーSを勝った時に「オークスを勝てる」と思った。テイエムオーシャン(01年桜花賞、秋華賞)、カワカミプリンセス(06年オークス、秋華賞)で、牝馬3冠を全部取れたのは大きかったけど、エリザベス女王杯はクロコスミアで3年連続2着。カワカミプリンセスも1位入線で降着(12着、06年)。女王杯は何とかして取りたかったですね。

ホッコータルマエは世代交代しながらでも、その中の頂点に立っていた。幸(騎手)がずっと乗っていた。1度だけ、彼が騎乗停止で岩田(康)に乗ってもらった。なるべくずっと同じ騎手で? そうですね。今の時代は乗り替わりが多い。その方がいいのか、何とも言い難いけど、やっぱり、馬があって人があって、ドラマになっている。1頭の馬を中心に人が集まり、同じ目標を持ってやるから、喜びが全然違ってくる。

亡くなられた土門(健司)先生から学んだのは、「絆」です。厩舎、オーナー、牧場、スタッフ・・・人のつながりを大切にされていた。僕もずっとそれを大事にやってきた。(土門先生は)厩舎で仕事する従業員は家族のような感じで、温かみのある場所でした。

振り返るとあっという間。いいことも悪いことも。楽しかったです。馬の世界というのは何ともいえない魅力がある。悩んでいる時は苦しむけど、勝ったらいっぺんに忘れちゃう。その繰り返しでしたね。(JRA調教師)

◆84年ジャパンC 10番人気カツラギエースが逃げて波乱を演出した。先手を奪うと、一時は10馬身以上の差をつけた。4角付近で後続との差は縮まり、直線に向くと他馬が襲いかかる。内から英国馬ベッドタイムが並びかけても突き放した。外から迫るシンボリルドルフも退け、1馬身半差の勝利だった。勝ち時計は2分26秒3。日本競走馬として初めてジャパンCを制し、無敗のシンボリルドルフに土をつけた。ルドルフは3着、ミスターシービーは10着だった。

◆西浦勝一(にしうら・かついち)1951年(昭26)2月7日、長崎県島原市生まれ。69年騎手デビュー。JRA通算635勝、重賞27勝。96年2月29日に騎手引退。同3月1日に調教師免許を取得し、97年に厩舎開業。初出走は同年3月1日、中京6Rサンセットムーン(1着)。調教師としてJRA通算454勝、重賞22勝(18日現在)。JRA・G1は01年桜花賞、秋華賞(テイエムオーシャン)、06年オークス(カワカミプリンセス)など6勝。

84年、カツラギエースでジャパンCを制した西浦騎手
84年、カツラギエースでジャパンCを制した西浦騎手