グラスワンダー無傷4連勝レコードV/朝日杯3歳S

<1997年(平9)>

平成の競馬史を振り返る「Legacy~語り継ぐ平成の競馬~」は平成9年(97年)の朝日杯3歳S(現朝日杯FS)を制したグラスワンダーだ。デビューから無傷の4連勝で1分33秒6のレコードV(当時)。栗毛の外国産馬は圧倒的な走りで多くのファンを魅了した。(取材・構成=木南友輔)

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97年12月7日。この日のグラスワンダーは絶対だった。「調教師を37年やったなかで、絶対に負けないと思ったのは生涯にこの1回だけ。そのくらい自信がありました」。尾形充弘元調教師(71)は打ち明ける。

史上最多となる外国産馬11頭、持ち込み馬1頭が参戦したレース。のちに海外G1を2勝するアグネスワールド、スプリンターズSを勝つマイネルラヴなど、そうそうたる馬を相手に単勝1・3倍の支持を受けた。新馬戦が単勝1・5倍で3馬身差、アイビーSが同1・4倍で5馬身差、京成杯3歳Sが同1・1倍で6馬身差。「デビューしようと思えば夏に使えたけど、この年は暑かったから秋の中山でデビュー。だから、4戦目で朝日杯へ行ければ」。思惑どおりのローテで圧勝を続け、ファンにとっても絶対的な存在になっていった。

「的場騎手(現調教師)にはリスクを回避してほしい、と。他馬とぶつからないように回ってきてくれ、と言いました。ソエは少し出ていたけど、ひどくはなかった」。6枠11番からスタートし、最後の直線は両前脚をたたきつけるような独特のフォームで中山の坂を駆け上がった。7年前にリンドシェーバーがマークした1分34秒0を0秒4更新するレコードだった。

キーンランドセプテンバー(9月)セール出身の米国産馬。「馬主と2人で行って、自分で選んできた馬です。歩数計はないけど、バーン(厩舎)がたくさんあってね。1日2万歩くらい歩きました」。当時はジュライ(7月)セールが最も高額な市場。同セール出身のアグネスワールドが105万ドル(約1億1550万円、現在の1ドル=110円換算)、マイネルラヴが37万5000ドル(4125万円、同)だったのに対し、グラスは25万ドル(2750万円、同)だった。「翌年にベニーザディップが英ダービーを勝つんだけど、それまでシルヴァーホークは目立った種牡馬ではなかったんです。ただ、ロベルト系はリアルシャダイ、ブライアンズタイムが日本で走っていた。それにダンジグの肌だったから日本で通用するスピードがあるんじゃないかな、と」。予感は見事に当たる。ちなみにグラスワンダーの全妹も米国でG1馬になっている。日本へ連れてきたことは先見の明というほかない。

「馬の世界でご飯を食べてきて、プロとして責任のある立場で競馬をさせてもらって、自分で足で稼いで見つけた馬。その馬がチャンピオンホースになってくれた。ワンダーに出会って、走り抜いた50代でした」。昨年ダノンプレミアムに更新されるまで、2歳馬の歴代最高レーティングだったのが97年朝日杯。「最強の2歳馬」「最強のグランプリホース」・・・。グラスワンダーの栗毛の馬体を思い浮かべずにはいられない。

97年の朝日杯3歳Sを制したグラスワンダーと的場均騎手
97年の朝日杯3歳Sを制したグラスワンダーと的場均騎手