出産翌日に点滴観戦 桜花賞/坂井コラム第40弾

皆様、いかがお過ごしでしょうか。

さて今回は「桜花賞特集号」でございます。思い起こせば昨年の桜花賞は私、病院のベッドの上でございました。

前のコラムでも書かせてもらいましたが、昨年「チアキの2019」を出産いたしまして。それが、桜花賞の前日だったんです。なので、昨年の桜花賞は私にとって今までとひと味違う桜花賞でした。というわけで、今回は少しその時のお話をしようと思います。お付き合いください。

それは、桜花賞の前々日。日付が変わってすぐのことでした。違和感があり、お手洗いに行くと破水しておりまして、冷静を装いながら(正直、怖くて震えていましたが)病院へ向かうことになりました。診察していただき、朝になったら促進剤を使いましょうという方針を聞き、そのまま入院となったのです。

まだ、陣痛もたいしたことなく、「こんな感じなら余裕やん」なんて調子に乗って朝食をぺろりと平らげていました。この後、とんでもなく苦しむことになるなんて知らずに(笑い)。調子に乗りすぎて看護師さんに「私、案外痛みに強いみたいです」なんて言うてましたよ(笑い)。

その2時間後、痛みのせいでベッドから転げて床でのたうち回ることになるのですが、様子を見にきはった看護師さんも驚いてはりました。もう、今までに感じたことのない痛みに「馬に蹴られるより痛い」(そんなわけない)なんてうわ言を発したくらいでした。

分娩(ぶんべん)室にうつされ、痛みは増していくのに一向に「チアキの2019」は出てくる気配はありません。助産師さんや母の「赤ちゃんも頑張ってるからお母さんも頑張れ」との励ましに「もう頑張ってるし!」と反論していたようです。正直、覚えていません(笑い)。そして痛みに泣きわめくこと12時間。このままでは「チアキの2019」が危険という診断がおり、桜花賞の前日である土曜日に日付が変わってすぐに「緊急帝王切開」の手術を受けることになりました。

そして、おなかから出てきたのは、なんとまあ、大きなBABY。それもこれも全ては私が16キロも増えたせいで、太りすぎたお肉が邪魔で初子は引っかかってしまったのが原因だったようです。病院の先生にも助産師さんにも「お母さんの栄養いきわたったな」と言われました(笑い)。やはり、競走馬も人間も太りすぎはいけないのだなと痛感しました。

さて、妊娠期間中なのですが、今まで体験したことのない体の変化に驚きました。皆さんもドラマなどで見たことあると思いますが、つわりで吐き気がしてトイレに駆け込む・・・・・・のような場面。私もそうなって、何も食べられなくなるものだと思っていました。ですが私は、めちゃくちゃ食べられる(笑い)。普段1人前も食べられないのに、2人前をぺろりと食べるのだから、そりゃ増えます。ただ、食べないと気持ち悪いので、また食べるの繰り返しでした。

そんな時ふと、「馬のつわりは見たことないよな」と思いました。実際、お馬さんに聞いたわけではないのでわからないですが、そんなお馬さんを見たことないからです。

そもそも、お馬さんは1度口から入れたものを吐きだすことはできません。牛さんのように反すうできるわけではないのです。なので、例えば乾草などがのどに詰まってしまった時などは、人間が喉の部分を上から下になで下ろしたり、トントンたたいたり、それでも通らないときは、ホースを口から突っ込んで水で流し込んだりします。まあまあ手荒な治療法なので初めて見た人はきっと驚くと思います。

話が飛んでしまいましたが、今回出産を経験して痛感したことがあります。と言うのは、「とんでもなく痛い」ということ(笑い)。

先ほども書いたように陣痛で12時間泣きわめいていました。元々、厩務員さんというお仕事をしていたので体力に自信があったし、まあまあな痛い思いをしてきたのですが比べ物にならないくらい痛かったです。世の中のお母ちゃんはすごいなと改めて思いました。

そんな出産を経験して、入院中に何人もの看護師さんから「人間は頭から出てくるけど、お馬さんも頭から出てくるの?」と聞かれました。皆さんはテレビなどで見たこともあらはるかもしれませんが、お馬さんの場合、前脚から出てきます。

お馬さんはおなか中で頭と前脚が出口に向かっている状態で、頸部(けいぶ)と2本の前脚は伸びて、蹄底が下を向いている状態が正常な状態です。これを正常胎位。頭位下胎向といいます。少しややこしい書き方ですね(笑い)。しかも、産道を楽に通過するため、片側の前脚は反対側より若干先に出した状態になっているんだそうです。改めて生物ってすごいなと思いました。

私が生産牧場にいた時に目の当たりにしたことはないですが、中には逆子や前脚の片側だけ伸びている場合など、正常の胎位ではないときもあります。そんな場合は、迅速な処置が必要と書いてありました。

自分の出産を通して「そういえば、お馬さんはどうやったかな?」と勉強し直すことができる良い機会となりましたし、今までとは少し違う視点でお馬さんのことを考える事ができました。

少し話を戻しましょう。そんな昨年の桜花賞。私は術後、貧血で点滴を打たれている状態でテレビ観戦しておりました。ついつい熱くなってしまい隣のナースステーションまで声が響いていたそうです。なんて迷惑なんや(笑い)。今年の桜花賞は、自宅で「チアキの2019」と一緒に楽しもうと思います。

さて、今回のコラムはこの辺りで。皆様ごきげんよう。

お馬さんをはじめ「生物ってすごいな」と思います。写真は07年、スティルインラブと誕生6日後の初仔
お馬さんをはじめ「生物ってすごいな」と思います。写真は07年、スティルインラブと誕生6日後の初仔
今年の桜花賞は自宅で「チアキの2019」と一緒に楽しもうと思います
今年の桜花賞は自宅で「チアキの2019」と一緒に楽しもうと思います