お馬さんの近くでコーヒー飲まない/坂井コラム第30弾

皆様、お久しぶりです。いかがお過ごしでしょうか。長いお休みをいただいておりました(理由は今後のコラムのネタにするつもりです)。待っていただいていた方もそうでない方も(笑い)、坂井のコラム再開させていただきます。

皆様はこの春・夏競馬いかがでしたか? 私は、お家で競馬専門チャンネルを見ている日々でございました。しまいには農業番組の時間も見ていまして、今後の農業について考える良い時間になりました。今回はそんな夏競馬を振り返ってコラムを書いてみたいと思います。

今年の夏競馬で印象に残った出来事は「禁止薬物摂取の可能性を否定できない馬の競走除外」でした。元厩務員である私は「そんなことあるんや ! 」と衝撃を受けました。ファンの方は日頃「競走馬の禁止薬物」について目にしたり、耳にしたりすることはあまりないと思います(あったらえらいことなのですけどね)。

皆さんはレースを走る競走馬にとっての「禁止薬物」の規程をご存じでしょうか。

「馬の競走能力を一時的に高め、または減ずる薬品または薬剤を指し、これを投与され、その影響下にある馬は、出馬投票できない」

「公正確保のため、レース後、1着から3着までの馬と採決委員が指定した馬については、禁止薬物の検査のための理化学検査を受けなければならない。この理化学検査は競走馬理化学研究所が担当している」

これを読んでもファンの方は「何なん?」と思わはるかもしれませんが、簡単に言うとレースの1着から3着までの馬と指定された馬は「尿検査」(もしくは血液検査)を受けて禁止薬物の影響下にないか検査します。そもそも禁止薬物の影響下にある馬はレース使えませんよ、ということが書いてあります。

これは厩務員はじめ関係者にとっては大事な「決まり事」で、そのような薬品・薬剤が担当馬の体内に取り込まれること・触れることがないように日々神経をとがらせています。

今回、見つかった「テオブロミン」。カフェインに似た効果があり、覚醒効果や血管拡張効果があります。

これが、「競走能力を一時的に高め、減ずる」ものと競馬施行規程で定められた薬品であるのです。今回それが、普段飼い葉に混ぜている食品添加物から見つかり「公正競馬」という点から競走除外という決断をせざるを得なかったようです。

これで影響を受けた厩舎関係者や馬主様のお気持ちを考えると悔しかったやろうなと思いました。もちろん、馬券を楽しみにしていたファンの方も怒りなどあったと思います。

競走馬はレースを使うために毎日厳しい調教をこなしています。調教師さんは馬の状態を把握しながら調教メニューを組んだり、助手さんは調教でその状態を確認したり、厩務員は心身のケアや飼い葉作りを工夫しています。全てはレースに良い状態でのぞむために。

だから厩務員さんたちは、お馬さんが口にするもの、体につけるものは「競走馬理化学研究所」(通称・理研といっています)で検査を通過したものを使います。

例えば、お馬さんの体を洗うシャンプーや保湿クリーム、整腸薬やサプリメントも理研でロット番号ごとに検査されたものがトレセンの中にある薬局(トレセンの中にあるんです)や飼い葉屋さんで売られています。

シャンプーだって、保湿クリームだって、整腸薬だって、商品名を聞いたら皆さんもきっとご存じで、薬局で目にすることもあるものです。ですが、厩務員さんたちはトレセンの薬局や飼い葉屋さんで理研の検査の通った物を使うようにしています。

それだけではありません。お馬さんの飼い葉や干し草、寝藁(ねわら)に禁止薬物の含まれたものが付着してお馬さんの体内に取り込まれないように気をつけています。

これは私が厩務員さんをしていた時の事ですが、いくら喉が渇いていてもおなかがすいてもお馬さんのハナマエでカフェインなどの「禁止薬物」の含まれているもの(例えばコーヒーやお茶など)は飲みませんし食べませんでした。万が一、なにかの拍子に飼い葉にかかってしまったら・・・これはえらいことです。なので、厩舎見学する際はそのようなものを手に持って入らないようにしましょう(って私は何者なんや)。それだけではなく、人間が体を痛めて湿布や塗り薬を使うのにも気をつけていました。これは禁止薬物だけでなく、規制薬物など(規制薬物についてはまた機会がありましたら書きますね)含まれている物がお馬さんに触れることのないよう気をつけていたのです。

「なんでそこまで」と思わはる人もいはるでしょう。

もちろん、「公正競馬」のためです。

万が一、競馬後の検体で「禁止薬物」なんてでたら、南海キャンディーズさんの漫才のネタではありませんが「警察さんが動かはる」のです。わかりにくい(笑い)。

そして、事件性があるかどうかを調べはるのです。それこそそんなことになったら、ほんまにえらいこっちゃなんですけどね。

今回、ファンの皆さんに厩務員さんたちが日頃どのように「禁止薬物」に気をつけているか知ってもらいたいなと思い、コラムを書きました。これからもこんな「元厩務員目線」で書いていきたいなと思っていますのでよろしくお願いします。

さてさて、いよいよ秋競馬がスタートします。秋のG1はどんなお馬さんとレースに出会えるでしょうか。楽しみです。それでは今回はこの辺りで。皆様ごきげんよう。

栗東トレセン厩舎内で競走馬と触れ合う坂井さん。こんな時、コーヒーやお茶の持参は厳禁です。
栗東トレセン厩舎内で競走馬と触れ合う坂井さん。こんな時、コーヒーやお茶の持参は厳禁です。