全てのチームが新年最初の第19節を消化し、スペインリーグの前半戦が終了した。レアル・マドリードが“冬の王者”に輝き、欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場圏内にジローナやビルバオといったダークホースが食い込む結果となった。
■守備面改善でリーグ最少11失点
Rマドリードは15勝3分け1敗の勝ち点48でジローナと並ぶも、得失点差、直接対決の結果でともに上回り、首位で前半戦を折り返した。
エースのベンゼマ退団の影響が懸念され、けが人続出の厳しい状況の中、新加入のベリンガムが瞬く間にフィットし、得点ランキングトップに立つ13得点を挙げてチームを牽引。さらにロドリゴが復調し、普段出番の少ない選手たちの奮闘が目立った。
アンチェロッティ監督が第19節マジョルカ戦後に前半戦を振り返り、「アトレチコ・マドリード戦での問題を解決できた」と語ったように、今季唯一の敗北を喫したマドリードダービーから守備面を改善できたことも成功の要因に挙げられる。守備の要であるクルトワとミリトン不在の中、ここまでクリーンシートを10回達成し、リーグ戦最少の11失点と申し分ない成績だ。
後半戦に向けて気がかりは、アラバが先月、今季絶望の大けがで離脱したにもかかわらず、アンチェロッティ監督が今冬の移籍市場で新たなセンターバックを補強しないと明言したことだ。チュアメニやカルバハルでカバーする方針を明かしているが、シーズンが佳境に入りCLが再開する中、うまく乗り切ることができるのか、その手腕に注目が集まる。
■ジローナの観る者楽しませる攻撃
特筆すべきは2位につけるジローナの存在だ。2季前に2部だったチームが今の順位にいることを、開幕前に誰が予想できただろうか? ミチェル監督がこれまでに培ってきた“観るもの全てを楽しませる攻撃的なサッカー”が華開き、リーグ戦最多の46得点を記録。Rマドリードと並ぶ15勝3分け1敗の勝ち点48の2位という堂々の成績で前半戦を終了した。
マンチェスター・シティを筆頭とするシティ・フットボール・グループの恩恵を受け、サビーニョやヤン・コウトのブラジル人サイドアタッカー、11ゴールで得点ランキング4位につけるFWドフビク、中盤の大黒柱アレイシュ・ガルシアなど、各ポジションにタレントを配し、ここまで黒星はRマドリード戦のみ。激しい撃ち合いを制し4ゴールを奪ったバルセロナ戦やアトレチコ・マドリード戦の戦いぶりは圧巻の一言に尽きる。
後半戦、各チームの警戒が増すことは必至のため、前半戦のようには勝ち星を挙げられないかもしれない。しかし、ここまでに獲得した勝ち点を過去のデータに照らし合わせると、3位以内でフィニッシュする確率は100%。それはジローナが来季、クラブ史上初の欧州CL出場を達成することを意味している。
■バルサに目立つ取りこぼしの多さ
昨季王者のバルセロナは12勝5分け2敗の勝ち点41で3位。序盤は新戦力がうまく機能し、勝ち星を順調に積み重ねていった。しかし主力のけがが多発したことや、昨季の得点王レバンドフスキの決定力に翳(かげ)りが見えていること、そしてクンデやバルデ、オリオール・ロメウ、ジョアン・フェリックスいった選手たちのパフォーマンス低下などが原因で、勝ち点を思うように伸ばせなくなっていった。それに追い打ちをかけるようにガビが今季絶望の重傷を負う不運に見舞われている。
また、守備での致命的なミスやプレスの弱さが目立ち、リーグ戦をまだ半分しか消化していないにもかかわらず、堅固な守備を誇った昨季全体の20失点をすでに上回る22失点を喫している。それも影響してリーグ戦ここ6試合のうち半分しか勝てておらず、Rマドリードとの勝ち点差が7に開いている。
シャビ監督が取りこぼした試合後に度々「我々は勝利に値した」と発言しているが、これは不安定なチーム状態を表していると言えるだろう。
直近のラスパルマス戦でバルセロナデビューを飾った新加入のビトール・ロケは可能性を感じさせるパフォーマンスを披露し、後半戦の巻き返しに向けた起爆剤となり得る人材かもしれない。しかしまだ18歳で欧州初挑戦のため、過度な期待は禁物だ。
■ビルバオは組織力に前線が機能
ビルバオは現在3連勝中で、ここ9試合負けなし(6勝3分け)と絶好調。11勝5分け3敗の勝ち点38という成績で、アトレチコ・マドリードを得失点差で上回って4位につけ、10季ぶりの欧州CL出場権獲得に向けて前進している。
成功の要因として、既存のメンバーに新戦力のガラレタが加わり組織力がアップしたことや、前線の4人がうまく機能していることが挙げられる。イニャキとニコのウィリアムズ兄弟のサイドアタックに磨きがかかり、トップ下のサンセットがスペイン代表に選出されるまでに成長し、前線でグルセタが高い得点力を発揮している(8得点)。
■Aマドリードはアウェーで勝負弱さ
アトレチコ・マドリードは12勝2分け5敗の勝ち点38で欧州CL出場圏外の5位。カラスコ退団で懸念された左ウイングバックを、期限付き移籍から戻ったサムエウ・リーノとリケルメでうまく穴埋めした以外、昨季から大きな変化がないが、シメオネ監督がここ数年取り組んでいる3バックシステムの完成度をより高めている。
得点ランキング2位のモラタ(12得点)と4位のグリーズマン(11得点)がスペインリーグ最強の2トップを形成して、チームが例年以上の得点力を発揮していることが特徴だ。
さらにホームのシビタス・メトロポリターノを難攻不落の要塞と化し、1年前にバルセロナに敗れた後、リーグ戦21試合無敗を誇る(19勝2分け)。空中戦で圧倒的な強さを発揮し、Rマドリードに唯一黒星をつけたチームとなった。
一方、アウェーで勝負弱さを露呈している。バルセロナ、ジローナとの優勝争いの直接対決に敗れて4連敗中であることが大きく影響し、首位に勝ち点10差をつけられている。
10季ぶりの参戦となる欧州CLで成功を収めているレアル・ソシエダードは、久保が6得点3アシストという素晴らしいパフォーマンスを発揮してチームを牽引。しかし序盤の取りこぼしや選手層の薄さ、最近のゴール欠乏症によりここ3試合連続で引き分けていることなどが響き、8勝8分け3敗の勝ち点32で6位となっている。
上位5チームとの対戦のうち、勝利したのはビルバオ戦のみ。その他の4チームに一度も勝っておらず(Rマドリード、バルセロナ、Aマドリードに敗北、ジローナと引き分け)、4位との勝ち点差が6あるため、2季連続の欧州CL出場権獲得はやや厳しい状況だ。
さらに来月上旬まで久保、トラオレ、サディクを代表戦で欠く可能性がある中、ビルバオ、ジローナとの重要なアウェーゲームを控え、正念場を迎えている。
下位チームに目を向けると、アルメリアは1勝もできず、残留圏内の17位セルタと勝ち点11差の最下位。前半戦を終えて勝ち点5というのはスペインリーグ史上、97-98年シーズンのスポルティング(勝ち点3)に次ぎ、2番目に悪い成績である。
100年近い歴史のスペインリーグにおいて、統計的に“冬の王者”に輝いたチームが優勝トロフィーを掲げる可能性は55%。一方、ここ10シーズンはその可能性が高まっており、70%となっている。すなわち、まだ19試合を終えたばかりだが、現時点でRマドリードが最も優勝に近い存在であることは間違いない。
【高橋智行】(スペイン発サッカー紀行/ニッカンスポーツコム・サッカーコラム)