技の進化に警鐘鳴らす声も ショーン・ホワイトから王座を継承した平野歩夢の新たな役割
平野歩夢の金メダルには、震えた。2回目が終わって2位。「もしかしたら、勝たせないつもりかな」とも思った。トリプルコーク1440は成功させたことはすごいが、ジェームズの2回目もすごかった。ジャッジへのアピールでは平野歩夢以上だったかもしれない。
トリプルコーク1440は確かに超大技だ。軸を斜めにしながら回転(縦に1回転しながら横に1回転)するコーク技を3回、前後に180度ずつ回り計1440(4回転)。前回の平昌五輪では平野歩夢とホワイトがダブルコーク1440の連続技で金メダルを争ったが、今は多くの選手が楽々とこなしている。
技の進化はすさまじい。初めてHPが採用された98年長野五輪ではマックツイスト(横1回転半の間に体を前転させる)が注目された。その後、大会ごとに1回転ずつ増えているような感覚だ。平野歩夢自身も「トリックがすごいことになっている」と話していた。
もっとも、大会ごとに大型化するパイプの形状によるところも大きい。今大会はこれまで最大級とされていた半径7メートルを超えるパイプ。長野大会時の倍だ。コースが大きくなれば、大きな技ができるようになる。
もっとも、技が大きくなれば危険度は増す。冗談ではなく選手は「死も覚悟する」という。パイプの底まで7メートル、パイプの上部から6メートルも飛び上がる。底からならビルの5階ぐらい。固められた固い雪に体を打ち付けての大けがも多い。
スノーボードなどエクストリームスポーツは、もともと隣り合わせの危険を楽しむ部分ある。ただし、五輪は別。Xゲームにはない年齢制限が、五輪はある。年齢制限を設けなかったスケートボードで13歳の金メダリストが誕生したが、いずれは制限されるだろう。
さらに、スノーボード界には技の進化に警鐘を鳴らす声もある。ジャッジの採点は「全体の印象」。技の難度だけでなく、安定感や独創性などさまざまな要素が含まれる。歌舞伎の「見得」のようにスタイリッシュに「決める」ことも必要。回転数だけで勝負が決まることは競技の本質ではない。
さらにパイプが大きくなれば、ビッグエアで見られるような5回転技も出てくるだろう。ただ、それがHPで受け入れられるかは疑問。回転数だけを求めてはスノボの「カルチャー」さえ壊しかねない。今後のHPがどこを目指すのか、ホワイトから王座を継承した平野歩夢の新たな役割でもある。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム 「OGGIのOh! Olympic」)
- 男子ハーフパイプの競技を終え、ショーン・ホワイト(右)と笑顔で話す平野歩(AP)