トム・クウィリー騎手(32)が日本に戻ってくる。アイルランド生まれ、英国を主戦場にしているジョッキー。今年のワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)に海外から出場する騎手の名前を見て、最もワクワクしたのは彼の名前を見たときだ。

 今年、怪物フランケルの初年度産駒ソウルスターリングが日本のオークスを制した。14戦すべての手綱を調教師ヘンリー・セシルから託されたクウィリーは、フランケルはすべてのレースを先頭で駆け抜けた。

 前回の来日は12年の年明けだった。フランケルの3歳シーズンが終了し、春からの4歳シーズンを控えた時期だった。短期免許の騎乗は約1カ月。大手のオーナー、有力厩舎のバックアップなどはなく、58鞍でわずか2勝に終わっている。グランプリボスが出走したセントジェームズパレスSの早仕掛けは日本でも話題になっていて、「うまい騎手ではない」という評判の方が先行していた。

 美浦トレセンのスタンドで調教の合間は1人でポツンとしていることが多かった。当時から海外競馬に夢中になっていたこともあり、帰国する週に「あのフランケルのジョッキーが来ているんだから」といろいろ話を聞かせてもらった。

 取材が終わった後、ノートの隅におもむろにサインをしてくれたのだが、「Best Wishes」と書き、自分の名前を書いた横に「FRANKEL’S JOCKEY」と彼は書いてくれた。「フランケルズジョッキーって・・・、フランケルってそこまですごい存在なの?」と驚いた。

 「距離延長? 問題ないよ。彼はスーパーホース。距離が延びても大丈夫なようにトレーニングしているし、他の馬をうまく使えばいいんだ」。自信満々の言葉通り、フランケルは8月、10ハロンに距離を延ばした英インターナショナルSで大外から、馬なりでセントニコラスアビー以下を豪快に抜き去った。ラストランの10月、英チャンピオンSは前年覇者シリュスデゼーグル、デビュー戦以来の対戦だったナサニエルを相手に苦手な道悪馬場で快勝。無敗のまま、現役生活を終わらせた。最後の2戦はいずれも「わざとでは?」と思うような出遅れ。美浦で聞いたクウィリーの言葉を思い出した。

 幸運にもラストランの英チャンピオンSは現地で取材できた。レースを終え、アスコット競馬場の記者会見場で「美浦からきたよ。覚えているかい」と声を掛けると、「覚えているよ」と彼はほほ笑んでくれた。

 その後、がんと闘病していたヘンリー・セシル調教師が亡くなり、フリーになって活躍の場所を失っていった。スキャンダルな報道もあり、大レースで名前を見る機会も減っていたが、昨年の英チャンピオンズデーに久々のG1制覇。今年はロイヤルアスコット開催のダイアモンドジュビリーSを制し、復活を印象づけている。そして、日本に再びやってくる。

 今週は美浦→新潟の1週間。現地には行けないが、怪物の主戦だった男、復活したトム・クウィリーが2度目の日本でどんな騎乗をするのか、楽しみでしかたない。【木南友輔】

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