<G1プレーバック:オークス>

 プレーバック日刊スポーツ! 過去のオークスを紙面で振り返ります。2010年は、G1史上初となる1着同着の判定が下され、アパパネとサンテミリオンが優勝しました。


◇ ◇ ◇


<オークス>◇2010年5月23日=東京◇芝2400メートル◇出走18頭

 えっ同着! 雨の府中で世紀の名勝負が演じられた。G1史上初となる1着同着の判定が下され、2頭の樫の女王が誕生。蛯名正義騎手(41)のアパパネ(国枝)は桜花賞に続く2冠、サンテミリオン(古賀慎)の横山典弘騎手(42)は2週連続G1制覇を達成した。

 検量室前に引き揚げてきた蛯名アパパネが2着の枠場に入った。「おい、1着のところに入っておけって」。陣営に促され、1着の枠場へ入り直した。サンテミリオンと鼻ヅラを並べてゴール。残り200メートル手前から馬体を併せた一騎打ちは内の横山典サンテミリオンが出たように見えたが、外のアパパネもしぶとく脚を伸ばしていた。蛯名も横山典も死力を振り絞り、秘術を尽くした。勝ち負けは誰にも分からなかった。

 長い写真判定。スタートから15分経過した午後3時55分、検量室に決勝審判から1本の電話が鳴り響いた。ざわついていた部屋が一瞬、フッと静まり返った。どっちだ-。

 「1、2位は1位同着で17、18番」。着順確定係が声を発したその瞬間、誰かが「同着だ!」と叫んだ。その声とほぼ同時に、横山典が蛯名に駆け寄った。はちきれんばかりの笑顔を浮かべて「おめでとー!」と首に手を回した。12分間の写真判定の結果は、G1史上初の2頭優勝。世紀の名勝負を分けた関係者に、大きな拍手がわき起こった。一気に2頭の樫の女王が誕生した。2人の同着は92年帝王賞のラシアンゴールド(蛯名)とナリタハヤブサ(横山典)以来だ。

 雨の中、競馬場に駆けつけた6万4555人が歴史的一戦に立ち会った。17番枠アパパネ、18番枠サンテミリオン。不利とされる8枠から、2頭はまっすぐ五分にスタートを切った。サンテミリオンの1馬身後ろをアパパネが終始追走する形で直線を迎えた。2頭とも折り合いはピタリ。坂下で横山典が仕掛けると、蛯名も動いた。

 横山典が「4角を回った時、後ろに(アパパネが)いることは分かっていた。あとは自分の馬がどれだけ伸びるかだった」と言えば、蛯名も「最後は必ず伸びてくれると思った」。2頭の脚色は周囲と明らかに違った。馬場の真ん中を突き進む両馬は譲らない。桜花賞馬の意地と、クラシックを取れなかった父ロブロイの思いがぶつかる。馬を信じ、伸びてくれることだけを考えて2人は追い続けた。死闘2分29秒9。両者の思いは成就した。

 表彰式は別々。優勝馬服は、もちろん1枚しか用意されていない。最初に登場したアパパネには馬服が、後に登場したサンテミリオンには優勝レイが、仲良く分けられた。写真撮影のため2頭が初めて横並びになったのはレース30分後で、馬服とレイを交換。落ち着いた様子でお互いを見つめ合い、たたえ合っているかのように見えた。

 横山典は「今まで何度も2着でつらい思いをしたので、勝つのは本当にすごく難しいこと」。「頭が下がります。同着には僕も感動した」と蛯名。20年以上騎手を続けてきた2人が、感動に浸った第71回オークス。最高の仕事をやり遂げた仕事人たちは、実に晴れ晴れとしていた。

※記録と表記は当時のもの

  1. お得な新入会プラン登場! 競馬情報サイト【極ウマ・プレミアム】
  2. 競馬予想に【ニッカンAI予想アプリ】