ディープインパクト産駒スタディオブマンが仏ダービーを勝った直後の6R、パドックに立っている若い日本人調教師がいた。清水裕夫(しみず・ひろお)。36歳。昨年8月、フランスギャロの調教師試験に合格し、「フランスで2人目の日本人調教師誕生」と日刊スポーツは報じた。今年2月に厩舎初出走、4月に厩舎初勝利を挙げ、この日は仏ダービー開催のシャンティイ競馬場に管理馬を送り出した(※6Rに清水厩舎、7、8Rに小林厩舎の馬が出走。2人の日本人調教師が存在感を発揮した)。

 身ぶり手ぶりを交えながら、若手実力派のアレクシー・バデル騎手に馬の特徴を伝え、指示を出す。開業1年未満でまだまだ新米調教師だが、その姿は様になっている。「うるさい調教師と思われているかもしれません。ただ、こうして指示を出すのも調教師の大事な仕事だと自分は思います」。強い決意を持って仕事をしている。

 日本人の椎名オーナーが所有するビュムーラン(牡4、父エクセレブレーション)は瞬発力勝負が苦手なため、早めのスパートを狙った。直線半ばで先頭に並びかけ、押し切る勢いにも見えたが・・・、最後は馬群にのまれて7着。「勝てると思いましたが・・・。リクエストどおりに乗ってくれたし、馬もスタートで少し遅れてしまったけど、よく走って力を出し切ってくれました。アレクシーは『また乗りたい。切れる脚はないけど、先行すれば、次はチャンスだ』と言ってくれたので」。悔しい表情を浮かべたことが、彼の調教師としての充実した日々をあらわしている。

 親戚に競馬関係者がいるわけではなかった。受験最難関の開成中・高を卒業。中学校時代に競馬に夢中になった。日本獣医生命科学大で馬術を学び、さまざまな牧場や海外の厩舎を経由し、フランスに落ち着いた。開業前は栗東の角居厩舎で研修し、開業後も角居師や厩舎スタッフと連絡を取り合い、日本のトップステーブルから刺激を受けている。大好きな日本の競馬と海外の競馬。レースをくまなくチェックし、今も研究を欠かさない。

 仏ダービー当日の朝はシャンティイ競馬場のコースを1周すべて歩き、馬場状態をチェックした。ディープインパクト産駒スタディオブマンについて、彼の見解はどうか。「今年のダービーはペースが速く、先行馬が崩れる展開になりました。2着馬、3着馬に人気薄の馬が入っているにもかかわらず、全体的に着差はあまりありませんでした。まだ評価はできないと思います。次にどれだけの走りができるかでしょう。仏ダービーは2400メートルから2100メートルに距離が短縮してから、スピードが必要なレースになった。2400メートルだった当時とは比べられません。バリー師は素晴らしい実績を持っていて、凱旋門賞をまだ勝てていないので、勝ちたいという思いが強いはずです」。

 忌憚(きたん)のない意見を述べるが、人柄は誠実で情に厚い。現在、厩舎にはプラントゥール産駒、マクフィ産駒の2歳馬がデビューを控えている。「プラントゥールは6月15日に出走予定。マクフィは8月のデビューを目指します。秋には大きいところを期待しているんです」。

 現在借りている厩舎にはエルコンドルパサーを破った凱旋門賞馬モンジューが入っていた馬房があり、使用しているウオーキングマシンはモンジューが使っていたものだ。「多くの日本の人にフランスの競馬を知ってもらうように務めるのも自分の役目だと思っていますし、日本の方に馬主になってフランスの競馬を楽しんでいただきたい気持ちが強いです」。自身の夢は「凱旋門賞を日本人で一番初めに勝つこと」。大志を胸に静かなシャンティイ調教場のリオン坂路コースへ毎朝向かう。地元のホースマンたちとにこやかにあいさつし、厳しい態度で日々の仕事に励んでいる姿がある。

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