今週の競馬で東西12人の調教師が引退する。美浦の小島太師(70)は、ダービー2勝など輝かしい成績を残した騎手時代と合わせた通算勝利数1500勝に王手をかけている。日曜メイン中山記念(G2、芝1800メートル、25日)のディサイファ(牡9)を含む、土日11頭で有終のメモリアル勝利を目指す。
小島太師は騎手時代ダービー2勝を含む、通算1024勝(重賞85勝)。表舞台で常に脚光を浴びた一流ジョッキーが、過去の栄光も、輝かしい実績も封印。調教師として“裏方”に徹することを決めた。技術調教師をしていた49歳の時、運転免許証を取得。これが第2の人生の始まりだった。
「以前なら牧場の人が車で迎えに来てくれたが、それでは駄目。立場が変われば自分から出向いていかないと。当たり前のことなんだけどね」。学生や主婦に交じって教習所通い。牧場を回れば頭も下げる。営業力を磨きながら、調教師としての人脈を少しずつ広げていった。これまでとは180度違う。苦労や努力も人一倍したが、そんな姿は決して見せない。
あくまでスマートに、格好良く。最後まで「フトシ流」を貫いた。そのスタイルが、またファンの共感を呼ぶ。「騎手の時と同じ態度だったら、成功どころか全然駄目だったろうな」。プライドはある、が表には出さない。己を知っているからこそ、調教師としても475勝も積み上げてこられた。
中山記念には、師が「宝物」というディサイファを出走させる。デビュー前から期待の大きい馬で、3歳時は「世界のホースマンに見てもらいたい」とジャパンC当日に出走させたこともある。「1歳から見てるので、ずいぶんと長い付き合いだな。実が入るのに時間がかかった分、長持ちした。9歳馬だが馬体は若いし、先週あたりから目つきや雰囲気が違ってきた」。あと1勝すれば、騎手&調教師で1500勝。華のある男の最後にふさわしい、最高の舞台が整った。【水島晴之】
◆小島太師のG1勝利 マンハッタンカフェで01年菊花賞、有馬記念、02年天皇賞・春、イーグルカフェで00年NHKマイルC、02年JCダート。通算5勝している。なお、重賞勝利はG1を含めて24勝(22日現在)。