函館開催も残り1週となったが、まだまだ熱く心をたぎらせている男がいる。3年ぶりに北海道シリーズに参戦している小崎(こざき)綾也騎手(22=村山)だ。

 3年前はデビュー年の14年。丸顔で初々しかった印象だったが、顔はシャープになり、表情からは成長を感じさせる。もちろん、表情を変えたのは年月だけじゃない。苦しみに耐え、挫折を乗り越えたからこそだろう。毎日の調教で何頭もの馬にまたがり感触を確かめる生活が、どれほど幸せかをかみしめている。

 どん底からはい上がってきた。初年度はデビュー前に右眼窩(がんか)底骨折し、同期より1カ月半遅れのスタートだった。その後、38勝と活躍し将来を嘱望されたが、15年4月に落馬し、左下腿(かたい)骨骨折で12月まで騎乗できなかった。さらに、その左足の再手術のため昨年6月から休養を余儀なくされた。復帰したのは今年1月。「正味2年くらいしか競馬に乗れていない」と話す挫折の日々だった。

 松若風馬騎手(21=音無)など同期が重賞を勝つなど活躍する中、1人ベッドの上だった。くじけてもおかしくない状況下。それでも、決して下を向かなかったからこそ今につながっている。「悔しいし、情けなかったけど、絶対にストレスにしないようにしていました。悩んでいる暇があったら行動しようと」。

 できることから始めた。体を作りかえることを最終目標に、まずは上半身から。そして、それまであまり意識してこなかった体幹。ジムには、トレーニング、リハビリなど用途によって分け、3カ所通った。函館入り後は2週間に1度はトレーナーに函館まで来てもらい、体のケアも怠らない。おかげで「体重は変わってないですけどパワーアップできました。自分の体を知ることもできたし、コンディショニングはケガをしてより考えるようになりました」と逆境を力に変えられた。

 当たり前だが、函館では競馬中心の生活だ。朝の調教が終われば、厩舎地区を回り、馬の状態を確認し、追い切りのスケジュールを組む。さらにトレーニングに体のケア。体の状態を1番に考え、毎日午後10時には就寝することを心がける。すべては競馬のため。「北海道では関西だけでなく関東の人にも知ってもらえる機会が増える。そういう意味でも北海道に来た」と話す。

 函館開催はまだ1勝。だが、この後の札幌開催も含め、北海道シリーズで10勝を目標にしている。「僕には圧倒的に経験値が少ない。騎乗数を増やさないと経験につながらない。1つ1つのレースを大事に大事に乗って結果をだしていきたい」。乗れない日々があったからこそ、今は素直に「競馬が楽しい」と言える。ひと回り大きくなった若武者のこれからに期待せずにはいられない。【松末守司】

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