乗り替わりはなんと武豊騎手!/坂井コラム第15弾
皆様いかがお過ごしでしょうか。この前用事があって栗東トレセンの事務所に行きました。すると、玄関を入ってすぐに2階から階段をおりてきはる武豊騎手と対面になりました。
私は「あ~! 武豊騎手だー!」と心の中でテンションアゲアゲになりながらも、何事もなかったかのように「こんにちは」とあいさつしました。武豊騎手も「こんにちは」と返してくれはったので私は心の中で小躍りしていました。
こう書くと皆さんは「トレセンで働いていたんやから、騎手さんなんていくらでも見るやろ?」と思わはるかもわかりませんが、実は案外そうでもないんですよ。
もちろん、競馬に乗ってもらう騎手さんや、調教してもらう騎手さんとはお会いするし、お話もしますが、そういうことがないとなかなかお話しすることはありません。
そもそも武豊騎手は私が競馬を知った時にはスターでしたから、ミーハーな私は今でもお見かけすると心がざわざわっとします。あー、握手してもらえばよかった(笑い)。
武豊騎手と言えば、厩務員さんをしていた時、1度だけ担当馬に乗ってもらったことがありました。
その日、シャン君という未勝利の息子ちゃんと競馬だった私は、普段通り京都競馬場に到着して準備していると「乗り替わり」と一報を受けました。
「うわ、大丈夫かな。そうなるとレースは誰が乗らはるんやろう」と思いながら装鞍所へ行くと「武豊騎手に乗ってもらうから」と言われました。
小さい頃からテレビで見てた人に乗ってもらえると思うと、ただでさえ競馬で緊張しているのに、ますます緊張したのを覚えています。
パドックで武豊騎手に乗ってもらうと「よろしくお願いします」と言うのが精いっぱいの私に、武豊騎手は「この子、前走こういうレースしてたよね」と、初めて乗るシャン君のレースを事細かに話しはりました。私は豊さんの話を聞きながら「乗ったことない馬やのにすごい」と感動したのを覚えています。本馬場へ出てシャン君を離すときに豊さんは笑顔で「じゃあ、お願いしますね」と返し馬へ。
「なんてすてきなんや」と思いながらレースを待ちました。程なくしてレースがスタート。シャン君は後ろからスタートし4角で外に出してスパートをかけた時、内にいた馬にぶつけられて外に弾かれたのです。豊騎手はすぐにまっすぐシャン君を立て直し、直線ズバーンと飛んできました。そして見事に先頭でゴール。
シャン君は男の子にしてはきゃしゃな子なので、はじかれたときにそのまま外まで飛んで行ってもおかしくなかったのに、何事もなかったかのように勝つのだからすごい人やなと思いました(もちろん、それにこたえたシャン君もすごいのですが)。
シャン君と帰ってきた武豊騎手は「はじかれて、ますますエンジンがかかったよ」と満面の笑み。その笑顔にますますファンになったことは言うまでもありません。
この1勝があったおかげで、私はシャン君とこの後、きさらぎ賞に向かうことが出来たので、すごく貴重で重要な1勝になったのです。
武豊騎手に乗っていただいたのはこの1戦のみでしたが、私にとっては良い思い出です。
今まで読んでいただいている皆様はお気付きだと思いますが、私はとてもミーハーです。武豊騎手のように1戦だけなら心臓も持ちますが、これが毎回乗ってもらう騎手さんなら普通に話せるようになるまで時間が必要でした。
それこそ、主戦で乗ってもらっていた四位騎手や藤田元騎手は、私が厩務員さんを目指そうと心に決めた学生の頃に、すでにG1を勝たれていて、メディアにもよく出てはったので、初めて会ったときは「うわーテレビの人や」と思ったのを覚えています。
多分、藤田元騎手には直接「テレビの人や」と言ってしまった記憶がありますが・・・(笑い)。
もちろん、仕事中は真剣にしていますのでそんな事は考えていませんよ(笑い)。ですが、時間があって大仲(厩舎の休憩室のようなところ)に入ろうとした時に、四位騎手や、藤田元騎手がいはると緊張したのを覚えています。
お2人ともそんな私に優しく話しかけてくれはったし、かわいがってくれはったし、何より沢山勝たせてもらいました。
厩務員さんを辞めた今でも、競馬場やトレセンで四位騎手にお会いすると「千晃、元気か? 腰の調子(私は厩務員さん時代からのヘルニア持ち)はどうや?」と気遣ってくれはります。
そういえば、四位騎手は私が厩務員さんになりたての頃「チャッピー」と呼び名を付けてくれはった思い出があります。かわいい呼び名で私は結構お気に入りでした。
三十路(みそじ)を超えた頃から「千晃」になった気がする。ちょっとさみしい(笑い)。
学生時代、周りの女子がアイドルにキャーキャー言ってたのと同じように、私にとっては武豊騎手や四位騎手、藤田元騎手は青春時代のアイドルの様な存在でした(だから、みんなと話があわなかったのか・・・)。
その方達とお仕事が出来た時は「ほんまに自分の夢をかなえて、厩務員さんになれたんや」と思ったものです。
年のせいか若い騎手さんの名前と顔が一致しなくなってきましたが。まあ、名前と顔が一致しないのは昔からなのですが(笑い)。
なので、約13年厩務員さんをしていてもお話ししたことのない騎手さんもいますし、競馬場にいって初めてお会いする騎手さんもいるんです。
もしかすると、私より皆さんの方が騎手さん達とお会いしてはるかもしれませんね(笑い)。
さてさて、今回は皐月賞特集号。皆さんは好きなお馬さんで馬券を買わはりますか? それとも好きで応援してる騎手さんでしょうか。まずは1冠。どのお馬さんと騎手さんが勝ち取るのでしょうか。ワクワクしますね。
それでは今回はこの辺りで。皆様ごきげんよう。
- 担当馬に1度だけ騎乗してもらった武豊騎手が、見事な勝利。「一生の思い出です」と話す坂井千晃さん