新馬ちゃんたちのデビュー/坂井コラム第4弾

 皆様いかがお過ごしですか?

 いよいよ春のG1最終戦・宝塚記念ですね。このコラムも春の連載最終便となるので、何書こうかなーと悩んでいます。

 実は私、毎年この時期は、北海道の開催に参戦していますので、宝塚記念についてはエピソードが思いつきません(そんなんばっかりやん)もう、このコラムが出る頃には新馬ちゃんたちがデビューをはじめ、来年のクラシックに向けての1年が始まってますね。厩務員たちも、新しい馬たちとの出会いにドキドキ・ワクワクする季節です。

 そんな新馬ちゃんについて「馬によって性格とかちがうん?」と質問を受ける時があります。答えは「もちろん」。たとえお父ちゃんが一緒でも、お母ちゃんが一緒でも、似たところはあっても1頭1頭全然ちゃうんです。厩務員をしていてその個性を見付けて付き合っていくことは、この仕事の面白いとこやなーって思ってました。今回はそんな個性を垣間見た「ゲートの思い出」について書きたいと思います。(前置きながいですね)

 新馬ちゃんたちが、競走馬としてスタートを切るために、トレセンに来てから最初の関門は「ゲート試験」やと思います。皆様が何気なしに見てはる新馬戦も、この試験に合格した馬たちが走っています。この試験に受からないと「競走馬」になれないのですね。試験を受ける前に、新馬ちゃんたちがどのくらいゲートに慣れているか確認するためゲート練習をしにいきます。ここでも、個々の性格の違いを感じた思い出がありました。

 これはまだ私がトレセンに就職したての頃、自分の担当する娘ちゃん「ゴッチン」とゲート練習に行った時の事です。普段からゴッチンはすごく頭が良くて、私の言うてること全部わかってんのちがうかな、と思うくらい指示通りに動いてくれる娘ちゃんでした。その日も坂路1本を乗り、一緒に調教していた厩舎の先輩が「今日はゲートで音を聞かせるから」と言わはりました。調教は乗っていたものの、ゲートに行くのが初めてやった私は、先輩についてゲートに向かいました。知ってはるかもわかりませんが、トレセンにあるゲートは本番さながら開くときに「ガッシャン」という音がします。ただし、まだゲートになれない馬さん達用に音が出ないのや、少し幅が広いのなどなど色々なバージョンがあります。「音を聞かせる」と言われたので、先輩について、ゴッチンに乗ったまま音ありゲートに入りました。『ガッシャン』・・・ じーーー。前を見ると先輩はダッシュをかましてはるかかなた。私は「音を聞く」と言うトレセン用語(?)をそっくりそのまま理解して聞き耳を立ててゲートの音を聞いていました。ゴッチンはと言うと、私が全く指示を出さずジーっとしているので微動だにせず指示待ちをしてはりました。

 私「えっ? 出すんかいな! ゴッチンごめんやで! ダッシュ、ダッシュ」と言うとゴッチン「あ、そうなん。任せてー」と言いながら(妄想)あっという間にスピードに乗って走って行きましたね。馬は集団行動する習性があるので、先輩の馬が走って行ったときにつられてダッシュしてもおかしくなかったんですが(そんなことになってたら私の体は取り残されて落ちていたやろうけど)ゴッチンはちゃんと私を待ってはりましたね。(他にも彼女のお利口さんエピソードはありますがそれはまたの機会に)

 また別のタイプの頭が良い娘ちゃんのゲートでの思い出があります。彼女もゴッチン同様新馬とは思えないくらい落ち着き払っていて、あまり動じることのない娘ちゃんでしたが、ゴッチンと違って必要以上にかまわれるのを好まずマイワールドを強くもつ子でした。「自分が納得するまでうごかないわよ!」と彼女はよく言っていました。(妄想2)

 ゲートに向かおうとすると、それまでは元気に歩いていたのに突然の牛歩戦術にではるんです。そして頭まで入るとピタッととまります。騎乗してくれてはった助手さんがGOサインを出しても、知らん顔。促すのに肩にステッキを「ぺちぺち」とすると、くりっと振り返って乗ってる助手さんの顔をじーっと見上げて見つめるんです。「なにすんねん。せかさんといてー」と言うてるのが聞こえてくるようでした。彼女を引いていた私は、笑ったらあかんけどその表情に吹きそうになったのを覚えています。めっちゃ牛歩やったのに、納得してゲートに入った後のダッシュの速いこと。ほんま、これもこの子の個性やなって思います。彼女もまだまだたくさんのエピソードを持つ娘ちゃんですが、それもまた機会があればお話ししたいですね。(ちなみにこの後、2頭とも新馬戦をぶっちぎりで優勝してくれたという素敵な思い出もプレゼントしてくれはりました)

 競走馬としての第1歩を踏み出すために、厩舎の人達はその個性や性格にあわせて、いろいろ工夫しながらゲート試験や調教をしてお馬さんと毎日向き合ってはります。これから新馬戦を見る時は、そんなストーリーを想像(妄想?)しながら見てみると、いつもとはすこしちがった競馬が見えてくる(カモ)しれません。

 さて、今回はこのあたりにしましょう。春の4回の連載、読んでいただいてありがとうございました。またお会いしましょう。

新馬との出会いは「ワクワクドキドキです」と話す坂井千晃さん
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