初のG1に連れて行ってくれた“しゃべる”娘/坂井コラム第6弾

 皆様いかがお過ごしでしょうか。今回は菊花賞。地元・京都競馬場でのG1です。

 私の初G1も京都で、11年の秋華賞でした。今回は初G1に連れて行ってくれた娘ちゃんについて、話したいと思います。彼女の呼び名は「ゼフィ」ちゃん。とても面白くて不思議な娘でした。馬っぽくなかった。多分本人も馬だとは思っていないように感じました。

 表情豊かで、感情がまっすぐ伝わってきて、たまにしゃべります(笑い)。

 「またまた~、大げさな」と言われるかもしれませんがほんまなんです。初めて出会ったのは函館でした。小柄でしたがプリっとしていて、光に反射する青毛が美しく一目ぼれしました。

 その頃、レースに向けての調教もハードだったのでしょう、調教が終わると私に向かって「ん~もう~、ん~もう」と言うてきます。(それを聞いていた女性厩務員さんからはあまりにモーモーいうので牛子ちゃんと呼ばれるほどでした)。

 「あがり運動が終わるまでは歩くよ」と私が言うと嫌々私の背中に顔をうずめて「ん~もう~、ん~もう」と言うのです。駄々をこねてる子供のようでかわいかったです。

 ゼフィちゃんは馬が好きではありませんでした(馬なのに・・・)。一定の距離を詰められると機嫌が悪くなり、怒ります。その上、雨が大っ嫌いで顔に雨粒がポタっときた瞬間、怒り出してイレ込みます(女優かいな・・・)。はじめ、何で怒っているかわからず、乗っていた私は結構ビックリしたのを覚えています。

 ある日厩舎に迷い込んできたハトがそのままゼフィちゃんの馬房に飛び込んでしまいました。人間以外は好きでないゼフィちゃんの事、さぞかし怒っているだろうし早く追い払わないと、と思って馬房をのぞくと彼女はハトを背中の上に乗せたまま、悠々と歩いていました。ハトもそこが自分の居場所であるかのように。「なんでお互い受け入れてんねん」とツッコミました。たまに牧場では見かけますが、現役の競走馬でそんな子を見たことがなく・・・というか、ハト大丈夫で何で雨あかんねん(笑い)。

 エピソードはまだあって、彼女は馬房でゴロンと寝転がるのが大好きで暇があれば寝言(馬も寝言いうんですよ)を言いながら眠る子でした。馬も体勢を変えるのに「寝返り」のようなことをします。その時たまに失敗をして壁にひっかかって起き上がれなくなる時があり、それを「寝ちがい」というのですが、ゼフィちゃんはよく寝ちがいをする子でした。いくら寝床を工夫してもしてしまうので、しょっちゅうのぞきに行っていたのを覚えています。

 たいていの子は寝ちがいをすると自分で起き上がろうと壁を蹴ったりするので、その音に気付いて人間が助けに行くのですが、ゼフィちゃんは寝ちがったらその状態のまま私がくるのを待つのです。私の声を聞いた瞬間、「ぶぶう~ぶ~(お~い寝ちがったぞ)」と言うのです。そして、自力で起き上がれる場所まで引っ張り出して「もう大丈夫やで」と声をかけると「ぶ~(ご苦労様)」とばかりにまた寝に入るのです。おかげで何度かギックリ腰(笑い)。まあ、彼女の馬っぽくないエピソードはつきませんが、競走馬としての彼女についても書きましょう。

 函館でデビューして勝ちあがるまで5戦を要しましたが、全て勝ち馬と差がない2着で、後の重賞馬やG1馬と差がなく戦ってきていました。能力はあるのに前に、もう1頭いる、と何度も悔しい思いをしました。周りから2の坂井と呼ばれたものです。もしかすると、勝ちきれないのは私のせいなの? と考えてしまう事もありました。

 私はデビュー時から「ゼフィちゃんはG1にいける子や」と思っていました。

2歳の夏に未勝利を勝ち、500万もこの勢いで、と思っていましたがまたも2着。自分の2着病を少し恨みましたよ(笑い)。

 勝ち上がったのは3歳の春でした。その頃、クラシック戦線はもう始まっていて、2歳のころ差がなく戦ってきた馬たちがG1を走っているのを見ながら「うちの子だって負けてない。いつかあの舞台に行くんや」とブツブツ言っていました。

 夏を越したゼフィちゃんはトライアルに向かわず直接「秋華賞」を目指すということになりましたが、2勝馬は抽選を突破しないと出走出来ない。確率は3分の2。出走確定する木曜日まで眠れない日が続きましたね(私が走るわけでもないのに)。

 そして、何とか抽選を突破し、念願のG1「秋華賞」。生まれ育った京都で、乗馬に明け暮れた京都競馬場で、しかも乗馬センターの時の先輩がゼフィちゃんの鞍上をつとめてくれる。そんな晴れ姿を苦労をかけた母に見てもらえると思うと「ゼフィちゃんも私もなんて孝行娘なのかしら」なんて思っていました(笑い)。ゼフィちゃんらしく無事に帰ってきてくれるよう馬頭観音様にお願いしてパドックへ。いつもと違う雰囲気に緊張してる私の横でゼフィちゃんは「大丈夫よ」と言っているかのように堂々と歩いていました。ゼフィちゃんをジョッキーに託してゲートへ。

 そこでまたビックリしたのはお客さんの近さでした。「秋華賞」はスタンド前からのスタートで目の前にお客さんがたくさん。人の多さと歓声にのみこまれそうな感覚でした。「これがG1か」と思うと鳥肌がたって心臓をわしづかみにされる感じがしました。他のレースとはまた違う緊張感でしたね。

 ゲートに誘導しスタート。ゼフィちゃんは先行馬なので2番手につけました。先頭を走る馬がなかなかのペースで逃げを打ったので、実質ゼフィちゃんが集団の先頭にたっていました。「よしよし、ゼフィちゃんらしいぞ」なんて言い、ターフビジョンでその姿を見ながら歩いていました。

 4角に差し掛かるころ後続馬の勢いにのまれだし、直線では後方になってしまいました。引きあげてきた彼女は(いつものレースよりも厳しかったのでしょう)いつも以上に「ん~もう~、ん~もう」言いながら、フラフラしていました。

「ここに連れてきてくれて、無事に帰ってきてくれてありがとう」と言いながら、ぎゅ~としましたね。若干迷惑そうでしたが(笑い)。幼いころから夢見てた舞台に彼女は連れてきてくれました。この感動は一生忘れないでしょうね。

 その後彼女は、もう1つ勝ち、5歳で引退しお母ちゃんになりました。今は彼女の子供たちが走るのが楽しみです。これからはファンとして皆さんのように熱く応援していきます。

 あらあら、長くなってしまいました。今回はこの辺りにしましょう。それではみなさん、ごきげんよう。

馬と話すことが出来た? 元JRA女性厩務員の坂井千晃さん
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