涙のクリスマスプレゼント/坂井コラム第10弾

 皆さまいかがお過ごしでしょうか。いよいよ、グランプリ有馬記念ですね。もう今年も終わってしまうんですね。

 といっても、厩務員さんは、競馬が終わったとしても休みはありません。年末年始の休みは元日くらいですね。でもお馬さんがいるので当番の厩務員さんはお正月気分もありません。

 さて、このコラムも今年は今回が最後ということで何を書こうかな。クリスマスも近いし、出来れば夢のある話がええなぁなんて考えていました。すると「少し早めのクリスマスプレゼントをくれた」息子ちゃんを思い出しました。

 彼の名前は「ウィー」君。2歳の新馬ちゃんでした。男の子なのにとてもおとなしく、なつっこく、ご飯をよく食べる本当に良い子ちゃんでした。彼は一生懸命調教も走るし、悪いことは何もしないのですが、ただ他のお馬さんと調教すると、ついていけませんでした。

 こればっかりは能力でもありますし、例えそうであってもその子にはその子にあった能力があるはずやし、何がきっかけでその才能が開花するかはわからないと思っていました。

 そんなウィー君、調教も重ねていよいよデビューというところまできました(ちょうどクリスマス前のこのくらいの時期でした)。しかしながら、調教タイムはなかなか縮まらず、調教に乗ってくれた方々も「いやー、この子はほんまいい子やけど勝ち負けするには正直厳しい」という意見でした。

 それでも、私にとってはカワイイ息子ちゃんには違いなく、デビュー戦までできる限りのことをしようと思っていました。

 そんな時、関西ローカルテレビ局の朝の情報番組で(街をぶらぶらしたりする番組です)「女性調教助手」という職業を取り上げることになり、私が密着取材を受けることになりました。それはちょうどウィー君と、もう1人の娘ちゃんの競馬の週でした。

 番組のスタッフさんからは「日常の仕事風景と、競馬にも密着取材させてもらいます」ということで、初めて芸人さんにも会いました。ミーハーな私はかなり緊張しましたが(笑い)。元々おっとりしているウィー君はテレビカメラが入ろうが、何しようが全くのマイペースで、しまいには取材に来てくれはった芸人さんにもなついてスリスリする度胸までみせていました。

 取材なんていう非日常的な1週間を過ごしていよいよ、娘ちゃんのレースとウィー君のデビュー戦の日を迎えました。

 まず驚いたのは、取材スタッフさんが、朝栗東から出発する馬運車に乗り込む所から密着されていたこと。朝5時から撮影されていたのはいいのですが、トレセンは何といっても馬が優先なのでライトなんてつけられないし(馬が驚いてしまいますからね)真っ暗な中の私とウィー君たちのシルエットだけを撮影して、すぐに競馬の行われる中京競馬場まで移動されていました。

 そんな中初めてのレースを迎えるウィー君は競馬場についても全くのマイペース。私はもう1頭の娘ちゃんのレースが先だったので準備をして競馬へむかいました。

 正直彼女は前走で権利もとっていて、負けん気も強く、競馬を重ねるたびよくなっていたので、期待をしていました。「こんな取材を受けている時に、勝ったりしたらもってるよなー」なんて心の中で思いながら、いざレース。

 しかしながら、やっぱり競馬はそんな簡単なものではないと思い知らされ、結果4着。全く悲観する内容ではないし、何と言っても娘ちゃんは精いっぱい走ってきてくれていました。「また、次頑張ろうね」と娘ちゃんに言いながら、次のウィー君の準備にとりかかりました。

 相変わらず、のんびりとあくびまでしているウィー君。なんだか私まで、落ち着いてしまいました。私は結構競馬前になると緊張する方なんです(笑い)。

 いざ、出陣! と気合を入れて、ウィー君に「君のいいところは、どんな状況でも動じないとこと、よく言うことをきいてくれること。例えみんなについていけなかったとしても、無事に帰って来るんやで」と言って送り出しました。

 中京競馬場、芝2000m、18頭立て。ウィー君は7番人気でした。ジョッキーさんに「ゲート行きますね」と言うと、「こんないい子なんやから来なくても大丈夫。ゆっくりスタンドで応援しといて」と言われたので、スタンドで祈っているとゲートが開きスタート。いつもおっとりしているウィー君がなんと好スタートを切って2番手へ。2000mという長い距離、どこかで馬群にのまれてしまうのか・・・なんて思って見ていると2番手のまま直線へ。そしてなんとそのまま先頭に並びかけて他の馬たちを突き放しにかかったのです。私も思わず「うおーーー、ウィー。行けええええ」とお客さんに負けない声を張り上げていました。

 見事、1着になったウィー君を検量室前で受け取ると泣けて(よく泣いてますね)ジョッキーさんに抱きつきました。すっかり密着取材を受けていることを忘れて。ばっちり全てうつっていました(笑い)。

 調教は誰にも勝ったことのなかったウィー君ですが、私にすてきなクリスマスプレゼントをくれましたし、テレビの取材を受けている時に勝つなんて彼は「運ももってる」馬だったと思います。私は彼と出会って「馬には、競馬には絶対はないし、決めつけてはいけない」と教えてもらいました。だから、レースの後「ついていけないかも」なんて言うてすみませんとウィー君に謝りました(笑い)。

 馬はイキモノやからほんまに何が起こるかわからないし、だからこそ競馬は面白いのやと思います。

 後日、そのテレビ放送がされたとき、馬主さんがとても喜んでくださり私に「ありがとう。たくさんうつっていて本当にうれしかった」とご連絡をくださいました。そんな言葉をかけてもらえることも、厩務員さんをしていて良かったなと思う瞬間でした。

 さて、今年の有馬記念は皆さんにとってどんなプレゼントになるでしょうか。すてきなレースを期待しています。

 長くなりましたが、これまでコラムを読んでいただき本当にありがとうございました。また来年「フェブラリーS特集号」でお会いしましょう。それではみなさん、よいお年を。(早いか。笑い)。メリークリスマス!

この夏、北海道旅行をした際に馬にニンジンをあげる坂井さん
この夏、北海道旅行をした際に馬にニンジンをあげる坂井さん