馬によってバラバラ 駐立を注意深く見ると面白い

 こんにちは。今週は、馬がゲートの中でどのように駐立しているかをお話ししたいと思います。

 まず、JRAに所属する全ての競走馬は、必ずゲート試験に合格しないとレースに出走することは出来ません。ゲート試験の内容としては、ある程度の時間の間はゲート内で駐立し、ゲートを真っすぐ出る動作が出来るかの確認です。どの馬も子供の頃からゲートの出入りを練習してからトレセンに来ますが、得意、不得意はあります。不得意になる馬の最も多い特徴としては、ゲート内での駐立です。長い間、駐立が出来ず、ゲート内で暴れたり、落ち着かなかったり、異常に緊張したり、周りの事が気になり、集中出来ないなどさまざまです。中には、閉所恐怖症で競走馬になれない馬もまれにいます。

 逆に、この様な特徴を持っていながらゲートが得意な馬もいるので、私が騎手をしていた時に出会った馬のエピソードをご紹介したいと思います。この馬は、ゲートの中に入ると前脚の右、左といった順番に上げ、ゲート内でソワソワした様な動きをします。騎乗している立場としては、落ち着きがなく静かに駐立させたい気持ちですが、この馬の場合はその逆です。自分でリズムを取り集中し、速く出るタイミングを独自のリズムでやっていたのです。私は、その集中の時間を邪魔しないように静かにし、逆にすごく速く出ることが分かっているので、バランスを上手に取ることだけを考えていました。それ以外にも後ろの扉に体重を乗せる馬や、ゲートが開くドア扉に異常に顔を付ける馬など、それぞれ個性があり面白いです。

 つい最近も、私がニッポン放送の競馬中継のゲート横リポートをしている中で、特徴的な馬に出会いました。その馬は、昨年の年末に引退したキタサンブラックです。彼は、ゲートの中では真っすぐ駐立をしているのではなく、体を斜めにしながら駐立している姿が特徴的です。

 鞍上の武豊騎手はその特徴を完全に理解しているので、ゲートに入る時は真っすぐに入りますが、ゲート内に入るとすぐに手綱で顔の向きを左右のどちらかに向け、体が斜め向きになるよう調整しています。出遅れをした天皇賞・秋だけは、ゲート内で他の馬が暴れその音に驚いたことで、斜めになっていた体が一瞬真っすぐ向きになり、体のバランスを修正しようとしたタイミングでゲートが開いてしまったことが原因でした。

 しかし、引退レースの有馬記念では、いつもの様に体を斜めに向け、ゲート内で落ち着いていたので、真横で見ていた私は、彼がいち早くゲートを出て行くと思いましたし、その通り出て行ったことはとても印象的でした。騎手も馬も、お互いの特性や特徴を理解し合うことは、レースの中だけではないということを皆様にお伝えできていたらうれしいです。ぜひ今後、競馬をテレビ観戦される際は、ゲートの中で馬がどのように駐立しているかを注意深く見てみると面白いかもしれません。(レースホースコーディネーター)