名手の配分鍵握るキタサンブラック/JC
ベテラン水島晴之記者がジャパンCの出走予定馬を前哨戦の内容から分析します。今回の対象はアルゼンチン共和国杯、京都大賞典、天皇賞・秋、オールカマー、菊花賞と昨年のジャパンCです。前哨戦の着順だけではない、プロの視点をチェックして下さい。
着差以上の完勝 シュヴァルグラン
<アルゼンチン共和国杯>◇11月6日=東京◇G2◇芝2500メートル◇3歳上◇出走15頭
- 直線、力強く抜け出したシュヴァルグランと福永騎手がアルゼンチン共和国杯を制した(撮影・酒井清司)
シュヴァルグランが力でねじ伏せた。中団から馬場の外めを進出。アルバートには半馬身差まで詰め寄られたが、ゴール前は手綱を押さえる余裕があり、着差以上の完勝だった。初の左回り、58キロを克服したのは大きい。宝塚記念の疲れが尾を引き、予定していた京都大賞典を自重する誤算があっただけに、ここをたたいての上積みも見込める。
2着アルバートは直線で馬群をさばくのに手間取った。スムーズに抜けてきたら、もっと際どい勝負に持ち込めたはず。12キロ増と体に余裕があり、絞れれば切れは増す。5着フェイムゲームは、全体にもたもたした印象。伸びかけて止まったのは休み明けの影響だろう。変わり身は見込める。8着ワンアンドオンリーは瞬発力勝負で良さが出なかった。復調気配は見せているだけに、流れ次第ではもう少し走れる。
<レース後コメント>
1着シュヴァルグラン(福永騎手) 加速がついてから伸びていった。
2着アルバート(戸崎騎手) スタートがもうひとつ。もう1列前で競馬したかった。直線で狭くなるところがあったが、広くなってからは伸びてくれた。
5着フェイムゲーム(北村宏騎手) スタートがゆっくりで、いい位置が取れなかった。流れが遅かったし58キロもあって加速し切れなかった。
8着ワンアンドオンリー(柴山騎手) 大跳びでよーいドンの競馬は合わない。ちょっと良さが出せなかった。
究極の上がり勝負不安 キタサンブラック
<京都大賞典>◇10月10日=京都◇G2◇芝2400メートル◇3歳上◇出走10頭
- アドマイヤデウス(中央)などを抑え京都大賞典を制するキタサンブラック(左)(撮影・渦原淳)
キタサンブラックは相手なりに走るのが特徴だ。2着アドマイヤゼウスとは首差だが、並ばれてからが強く、仮に50メートル後ろにゴールがあっても、抜かせなかっただろう。武豊騎手が「この馬らしい勝ち方」というのもうなずける。唯一の不安は究極の上がり勝負になった時。直線の長い東京コースで、離れた外から一気に来られ時に対応できるかどうか。名手のペース配分が鍵を握る。
4着サウンズオブアースは、後方でうまく流れに乗れなかった。それでもレースの上がりを0秒6も上回る33秒1の脚を使っており内容は悪くない。たたいた上積みはかなり大きい。5着ヒットザターゲットは馬混みで力を発揮するタイプだ。G1ではややパンチ不足の印象も、混戦になれば浮上する。7着ラストインパクトは少し太めもあったし、ここまで上がりが速くなると厳しい。平均ペースならもっとやれる。
<レース後コメント>
1着キタサンブラック(武豊騎手) この馬らしい勝ち方でした。後ろから来たら来たで、また伸びそうな感じでした。首差だけど完勝です。
4着サウンズオブアース(M・デムーロ騎手) ゴチャゴチャして厳しい競馬になった。でも、久々を考えれば内容は悪くない。一瞬はすごい脚を使った。
5着ヒットザターゲット(小牧騎手) これくらいの距離が合っている。まだまだやれる。
7着ラストインパクト(川田騎手) 4角までスムーズな競馬ができました。伸びてくれる雰囲気はあったんですけどね。
末脚光った リアルスティール
<天皇賞・秋>◇10月30日=東京◇G1◇芝2000メートル◇3歳上◇出走15頭
- 直線で鋭く抜け出したモーリス(右端)が2着リアルスティール(右から2頭目)を抑え天皇賞・秋を制した
リアルスティールの末脚が光った。モーリスには届かなかったが、上がりは最速タイの33秒5。安田記念(11着)は行きたがって失速したが、今回は後方3番手でうまく折り合った。スムーズに運べば、しまいは切れる。後ろで我慢させたことが、2400メートルの今回につながる。
7着ルージュバックは完全に脚を余した。3角からリアルスティールの内を進出したが、直線で外へ張ることができず、逆に押さえ込まれた。最初からリアルの外を回る選択をしたらどうだったか。コース取りの差で着順は気にならない。距離延長はプラスとはいえないが、決め手勝負なら巻き返せる。
<レース後コメント>
2着リアルスティール(M・デムーロ騎手) すごく頑張った。最後まで伸びていた。この馬も強い。
7着ルージュバック(戸崎騎手) 流れが遅く、外を回そうとしたがゴチャついた。スムーズならもっと走れた。初の中2週でも馬は良かった。
自分との闘い ゴールドアクター
<オールカマー>◇9月25日=中山◇G2◇芝2200メートル◇3歳上◇出走12頭
- ゴールドアクター(右)がサトノノブレス(中央)を首差抑えオールカマーを制した(撮影・酒井清司)
ゴールドアクターは自分との闘いだった。天皇賞・春(12着)はパドックで尻っぱねをするなどテンションが高く、レース前に終わってしまった。今回はパシュファイヤー(メンコの目の部分に網状の目隠し)を着用。その効果で落ち着きがあった。平常心で競馬ができれば力は上。今回もゲートまでの持っていき方次第だろう。7着ワンアンドオンリーは、位置取りが後ろすぎた。上位とは0秒4差。もう少し前につけられれば入着以上もあった。
<レース後コメント>
1着ゴールドアクター(吉田隼騎手) 春の天皇賞より落ち着いていた。2着サトノノブレスがしぶとかったが、何とかかわしてくれて良かった。
7着ワンアンドオンリー(内田騎手) 道中は楽に行けたけど、もう少し前に上がっていきたかった。
底力が必要 レインボーライン
<菊花賞>◇10月23日=京都◇G1◇芝3000メートル◇3歳◇出走18頭
- 菊花賞を制したサトノダイヤモンド(左)右端は2着のレインボーライン(撮影・宮崎幸一)
サトノダイヤモンドが強すぎたため、勝負を挑んだ馬はことごとく苦しくなった。そんな中、直線にかけたレインボーラインが、大外一気に2着まで押し上げた。NHKマイルC3着で本来は2000メートル前後がベストの馬。スタミナを温存して、切れ味を引き出した福永騎手の好騎乗が光る。東京の2400メートルは許容範囲だが、底力が必要な流れでは厳しいか。
4着ディーマジェスティは、坂の下りでサトノダイヤモンドに並びかけに行くときの手応えが良くなかった。本来はあそこから伸びる馬。3000メートルの距離以外にも敗因はありそうだ。東京の2400メートルに条件が替わるのは歓迎。ダービー馬マカヒキを皐月賞で破った実力は、古馬相手でも引けを取らない。状態さえ良ければチャンスはある。
<レース後コメント>
2着レインボーライン(福永騎手) 最後まで一生懸命走ってくれた。いつも期待以上に走ってくれる。得意じゃない距離で、よく頑張ってくれた。
4着ディーマジェスティ(蛯名騎手) 今日は最初から進んでいかなかった。なぜかな。サトノダイヤモンドが上がっていった時、手応えが悪くなって、ついていけなかった。(敗因は)距離ではない。
昨年のジャパンCを振り返る
<ジャパンC>◇11月29日=東京◇G1◇芝2400メートル◇3歳上◇出走18頭
前哨戦ではないが、今回来日している外国馬(3頭中)2頭が出走した昨年のジャパンCを振り返る。
6着イラプトは4角で内を突くが、下がってきた馬の後ろで不利を受けた。立て直してからはよく差を詰めたが、最後の100メートルで苦しくなった。11着ナイトフラワーはイラプトの後ろで前が壁。シュタルケ騎手はまったく追うことができず、手綱を押さえたままゴールした。スペースがあったら突き抜けていたかもしれない。大外枠、直線の致命的な不利を考えれば、通用の力はある。2年連続の挑戦で大駆けがあっても驚かない。
<レース後コメント>
6着イラプト(グラファール師) 4角で進路を確保できず前が詰まった。一瞬いい脚も使ったけど、最後の100メートルで止まった。
11着ナイトフラワー(シュタルケ騎手) 内にこだわったけど、直線で前が壁になってしまった。いい具合で臨めたけど・・・。