ブームタイムは屈腱炎から立ち直り、先月のコーフィールドC(芝2400メートル)でG1タイトルをつかんだタフな牡馬です。デビューから32戦目、17頭立ての13番人気、単勝51倍。最終コーナーまでぴったり内に張り付き、直線で外に持ち出されると素晴らしい伸び脚を披露しました。

 血統は父母ともにスピードが身上。近親には25戦不敗という大記録を持つ近年屈指の快速馬ブラックキャビアがいるスプリンター一族。この馬は全7勝のうち6勝を2000メートル以上の中長距離戦で挙げ、異彩を放っています。

 D・ヘイズ調教師は、オーストラリア競馬界の「レジェンド」コリン・ヘイズ調教師を父に持ち、厩舎開業の90年にベタールースンアップでジャパンCを制した先見の明のあるホースマン。今回は馬主兼調教師としての来日です。調教師が馬主? 奇妙な感じがしますが、06年スプリンターズSを勝ったテイクオーバーターゲットもそうだったようにオーストラリアではよくあることです。

 ブームタイムは友人の事業家との共有でしたが、パートナーの仕事が行き詰まり、ヘイズ師が全権利を買い取りました。単独所有になった途端に優勝賞金175万豪ドル(約1億5750万円)のG1を勝ってしまったのですから、なんとも皮肉な話です。

 コンビを組むパリッシュ騎手も同馬と同じような苦労人です。何のつてもなく競馬サークルに飛び込み、06年にニュージーランドで見習騎手になったものの鳴かず飛ばず。12年にオーストラリアに拠点を移し、ローカル競馬で騎乗しながらヘイズ厩舎の調教を手伝い、チャンスをものにしました。今年、オブライエン厩舎の5番手騎手として初めて参加した英ダービーを伏兵ウイングズオブイーグルスで制したP・ペギー騎手のシンデレラストーリーとよく似ています。

 90年の日本馬のレベルと今年のそれは大違い。さすがに勝ち負けまでは難しいかもしれませんが、今年最後の競馬に懸ける走りに注目したいと思います。

【奥野庸介】(ニッカンスポーツ・コム/極ウマコラム「ワールドホースレーシング」)

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